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胡桃(くるみ)

今朝のNHKの「うまいッ!」は長野・東御市の胡桃でした。冒頭、「日本で食べられる胡桃で日本産は1%しかない」と紹介されていて、「ああ、やっぱりそうだったのか!」と思いました。
 この前「ごりの佃煮」でお話しした金沢のお店は、胡桃のあめ炊きも販売しています。50年前に送ってもらった佃煮の中にあったくるみのあめ炊きは「オニグルミ」でした。鬼胡桃の存在は、その佃煮詰め合わせにあったパンフレットで初めて知りました。東御市などで普通に栽培される「シナノグルミ」は西洋種と中国種の雑種で、実が大きく割りやすい種類です。50年前のパンフでは「オニグルミは野生種で、身が小さいが美味しいものである」と書いてありました。確かにあめ炊きにしても独特な香気が残っており、かすかな苦みとともに特別な胡桃なんだなあと思った憶えがあります。今の金沢の胡桃のあめ炊きは、残念ながら普通の胡桃すなわちシナノグルミです。オニグルミの身は小さく、ハート型をした発生途中の脳のようでした。その点シナノグルミはヒトの成人脳の脳回のように凹凸が細かいですね。胡桃全体でも国産胡桃が1%なら、オニグルミのあめ炊きは商売として難しいでしょう。オニグルミは殻が大変固いと書いてあったので、昔のオニグルミのあめ炊きは大変に貴重なものだったのだと、今にして思います。


 さて、番組では胡桃の収穫が紹介されていました。乾燥させて熟成すると美味しいようですが、生の胡桃はあまり日持ちしないと紹介されていました。生で食べられるのは数日ということですが、そうだったのか!10月末から11月はフランスでも生の胡桃のシーズンです。大学院時代の指導教授がパリに来た時、パリ第五大学の教授が我々を昼食に招待してくれました。サンジェルマン通りに面したレストランだったと思いますが、前菜として出たのが「胡桃のサラダ」でした。フリゼと呼ぶ野菜(苦チシャと日本では言いますが、細かく縮れているのでこの名がある)の上に、生の胡桃・洋梨そして青カビチーズのロックフォールは掛かっていました。実に美味しいサラダで、フリゼの苦みに3つの味わいが混然となり、「これがフランス料理か」と思いました。特に生の胡桃の苦さがフリゼの苦みと合わさって、まさに大人の味でしたね。
 その頃はパリでの生活にまだ慣れておらず、夜帰宅しての食事もRU(restaurant universitaire:大学食堂)に世話になることが多かったです。さすがに飽きてきた週末、初めて食材を買いに近くの店に行った時、偶然この生の胡桃が目に入りました。女主人が「今は、これのシーズンですよ」と勧めることもあって、早速洋梨やチーズと一緒に買いました。クルミ割りはどうしたんだか忘れましたが、とにかく割ってサラダ再現です。美味しい。チーズはロックフォールみたいにピカンテに限ります。簡単にできるので、その後何度もつくりました。フランスでは当時からポピュラーだったマンゴーを洋梨の代わりに使ってみましたが、これも良かったです。


 胡桃は日本全国にあるようですが、どちらかというと北のイメージです。今夏の北海道旅行で網走監獄に行った時、構内に胡桃の木がありました。家族から「これ、何の木?」と訊かれ、ヌルデみたいな葉を見て「胡桃」と即座に返事しました。半信半疑そうな顔だったので、地面を探すとすぐに去年の胡桃の殻が見つかりました(家族に面目が立ちました)。盛岡は胡桃の美味しいお菓子が多いですね。盛岡というと宮沢賢治ですが、彼の童話「銀河鉄道の夜」に化石の胡桃の話が出て来ます。「プリオシン海岸」で化石となった胡桃の実をカンパネルラとジョヴァンニが見つけます。これ、賢治が実体験として北上川で見つけたオオバタグルミのことですね。オオバタグルミは北半球に広く分布していましたが、今から100万年前くらいに絶滅しました。化石としてしか見つからないのですが、日本では宮沢賢治が初めて発見したそうです。このオオバタグルミは原性種の胡桃より相当大きい実のようで、「銀河鉄道の夜」にこんな記載があります。


「おや,変なものがあるよ。」カムパネルラが,不思議さうに立ちどまって,岩から黒い細長いさきの尖ったくるみの実のやうなものをひろひました。「くるみの実だよ。そら,沢山ある。流れて来たんぢゃない。岩の中に入ってるんだ。」「大きいね,このくるみ,倍あるね。こいつはすこしもいたんでない。」「早くあすこへ行って見よう。きっと何か掘ってるから。」二人は,ぎざぎざの黒いくるみの実を持ちながら,またさっきの方へ近よって行きました。


 日本ではその後オニグルミと置き換わったようですが、なぜ絶滅したんですかね。マンモスの化石と一緒に出土することもあるという記載があるので、今の胡桃より寒冷地の気候に適していたのでしょう。氷河期の終わりとともに、マンモスなどの寒冷地大型獣と一緒に絶滅したのでしょうか。


 そろそろ近くの駅のJA物産店でも、胡桃が出回る時期となりました。あれ、フランスみたいに生で売ってくれないかな。残念ながらいつも火が通ったもので、生胡桃の味を知る者にはちょっと残念です。でも鮮度が良いからきっと美味しいサラダができるでしょう(日本はフリゼが手に入りにくいですが)。またつくってみますか。