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ルポ大学崩壊 〜憂うべき日本官僚や政治家たちの愚策・愚行

終身雇用など日本の〝常識〟見直しへ 〜そんなに日本を破滅に追いやりたいか?


令和4年度も明日で終了となりますが、2023年問題は今どうなっているのか強い関心があります。今調べたら2023年問題は色々あるようで、労働雇用にさまざまな変化が起こります。しかし私が思うのは、大学研究者雇用の2023年問題です。有期雇用が5年以上継続する場合に無期雇用に転換させることができる「5年ルール」が施行されたのは2013年4月で、5年後の2018年には雇い止め問題が一般企業で深刻になりました。ところがポスドクなど任期つき雇用が多い大学などの研究者には多大な影響があるとのことで、10年間を超えた場合に無期雇用に転換するという10年ルールの特例が設けられました。その10年がこの3月になる訳で、昨年から研究者の大量の雇い止めが起こると議論になっています。


 大学などの研究機関は基本的に営利ではないので、支出でもっとも金がかかる人件費の財源は限られています。その最大の財源が国から支給される運営交付金や私学助成ですが、まったく増えません。それどころか運営交付金は減額の一途です。日本が経済的に頭打ちになって税収が増えていないから仕方ないというのが財務省の論法ですが、天然資源に乏しい我が国で最大の資源は人材です。研究開発で稼いでいかないと日本が国として成り立たなくなると私は考えますが、最近の高等教育や研究に対する抑圧は深刻です。一般企業にお務めの方だと知らないひとも多いと思いますが、准教授など課長相当の職位でも任期付きが多く、40代になっても雇用が不安定です。研究者も普通に家庭を持ちますが、そういういつ路頭に迷うかわからない状態で子育てや教育をおこなうのは相当なストレスです。本書でも後半でこの雇い止めの問題に多くのページを充てていますが、是非知っていただきたい現状です。
 さてこの本で特に注目したのは京大・北大・大分大の問題で、それぞれに違う局面があります。まず京大ですが、例の「立てカン撤去事件」です。実は子供が2018年にこの大学に入って下宿を捜しに行った時、立てカンだらけの京大キャンパスに度肝を抜かれました。いやー、懐かしいわあ。自分が予備校生だった頃、近くの明治大とか立てカンだらけでした。1970年代末学生運動はかなり下火になってましたが、狭山事件が部落民弾圧と関係するとかデカデカ書かれた立てカンが林立していました。しかし1990年代見違えるようにオシャレに建て直された明治大キャンパスにはもはや立てカンは見当たりませんでした。その後立てカン自体を忘れていましたが、京大の立てカンを見て、40年以上前に引き戻された気分でしみじみとその「生きた化石」を眺めたのを思い出します。しかしそのわずか数ヶ月後に大学当局によって全面撤去になったのですね。学生たちも黙っていたわけでなく、立てカンの設置と撤去がいたちごっこみたいに繰り返されていましたが、新型コロナ禍による入構規制もあいまって、今はほとんどなくなりました。この立てカン撤去も大学当局というより、文科省の強い指導があったためでないかと感じました。


北大の問題はもっと深刻です。先日文科省による国立大学法人に対しての第3期中期目標(2016~21年度)の実績評価が発表されました。この中で北大が旭川医大と並んで低い評価となっており、「重大な改善すべき点がある」となっています。この北大と旭川医大について本書でも触れられていますが、いずれも学長の適格性の問題です。両方とも学長が辞めたことから今回の文科省の指摘がなされたわけですが、北大の名和前学長の「解任」に関しては、その内容に重大な疑義が示されています。つまり名和学長の解任で彼がおこなったとされる職員に対するハラスメント行為は実は「なかった」のです。解任という非常事態になったのは、名和学長が文科省の意向通りでない大学改革をおこなおうとした点が不興をかい、陥れられた可能性があるのです。


 大分大の北野学長の問題は、上で述べた旭川医大の吉田前学長とよく似ていると感じました。地方の規模が小さい大学で学長がワンマン化してガバナンスがない状態に陥っている点です。重要な人事を勝手に決めて、教職員や学生の疑問の声を無視する。私は非常に不思議に思うのですが、今の文科省が推進している学長選任方式は利益相反でないでしょうか?自分の任期や再任も含めて自分が任命した役員会も関与する選考会議で決める。これ、「お手盛り」と言うと思います。いくら役員会選出の委員は1/3以下の員数といっても、だから公平に選考されると思うひとはいるのでしょうか。北野学長、吉田前学長とも医学部出身の医師(九大医学部、旭川医大)であることも共通しています。


 日本の研究人材育成に大学、特に国立大学が担う役割は非常に大きいです。ところが小泉純一郎が推進した「構造改革」以降、大学に対する政府や官庁の無意味な抑制や恫喝が拡大しており、本来ならば政治から独立であるべき大学が政治に従属した立場に成りつつあります。このままでは日本の学問は衰退必至です。今中国の研究力は飛躍的に増大して脅威となってきていますが、日本はその脅威以前に自ら滅亡に向かっているのでないかという大きな憂いを感じました。


ルポ大学崩壊 田中圭太郎著 ちくま新書 2023.2