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「山手線で心肺停止!」 〜冠れん縮性狭心症は怖い

ポワール



この本は以前高次脳機能障害の講義で使えるかなと思って購入した漫画本です。久しぶりに読み返して、忘れていたことも思い出しました。何となく動脈硬化による器質性の急性心筋梗塞だったかのように思ってましたが、心臓の冠動脈がれん縮して起こる「安静型狭心症」の発作だったのですね。30分以上も閉塞に近い狭窄が起こるのか!というのが実感です。


血管れん縮は中膜の平滑筋の収縮で起こりますが、交感神経の異常興奮が引き金となります。著者の熊本美加氏は致命的な発作が起こる数週間前から起床時を中心に胸痛を感じていたことが書かれています。しかし数分で収まるので、「単なるストレス」と放置してしまいます。熊本氏は忙しいライター生活で、この程度でわざわざ受診するのも面倒と思ったことも述べられています。この気持ち、私はとてもよくわかります。というのは、自分自身がほぼ同じ経験をしたことがあるからです。今から10年以上前ですが、大学に着いて朝から仕事していたら、まったく突然に胸が締め付けられるような痛みに襲われました。自分の場合、1分くらいは続いたかな。朝早いから周囲にひとが居ません。「どうしようか、だれか呼ぼうにもひとがいない。じゃあ、救急の外来?」と考えましたが、胸が痛くて考えがまとまらないです。広い大学で救急までは遠くて行き着くまで歩く自信がない。それに救急に行くと大事になるのが何か怖くて決断できません(まさか自分がそんな大病を?という感覚)。そうこうするうち、これまたまったく突然にすっと痛みが引いてしまいました。「気のせいかな?」と医者らしからぬことを考えましたが、熊本氏も同じような考えで医者にかからなかったのです。私もこういうことが何回かあったので、彼女の気持ちがとてもよくわかります。しかし、熊本氏の場合もう少し発作の時間が長く、かつ頻回にあったようです。「ストレス」と考えてそのまま行動していた熊本氏は、打合せのための出勤途中の山手線内で強い発作に襲われ、浜松町駅で心肺停止となってしまいます。駅員の方々の懸命な救命措置にも関わらず心拍は再開せず、済生会中央病院の救急で人工心肺につなぐまで血液循環がありませんでした。普通は死んでしまったケースだと思います。しかし、熊本氏は奇跡的に一命を取り留めました。ところが意識が戻った後に判明したのが、「高次脳機能障害」です。記述からすると回復初期には「せん妄」もあったのでないかと思いますが、後に残っていくのが「易怒性」と「注意欠陥障害」から来る様々な日常動作の困難です。典型的な高次脳機能障害ですが、こういう心疾患でも起こると知り新鮮な驚きを感じました。


 その後に続くリハビリを読み、「いや、これは大変なことだな」とつくづく実感しました。リハビリのための東京都リハビリテーション病院への転院を経て、2ヶ月後ようやく自宅に戻れた熊本氏。ところが自宅で再びの胸痛発作に襲われ、血管れん縮に効くはずのニトログリセリンが効かず、焦ります。備えていた熊本氏は救急ですぐ運ばれますが、そこでの診断は「胆石発作」でした。確かに内臓痛として狭心痛と近い部位で起こりますから、間違うのも無理はないです。高次脳機能障害は完全には癒えないものの日常業務に何とか復帰できた熊本氏が上梓したのが、この本です。熊本氏は冠れん縮発作が起きた原因を、「ストレス」としています。長くがんを患っていた母親の介護とその死が想像以上にストレスを与えた結果でないかと、熊本氏は自己分析しています。


 久しぶりに本書を読み直して、僕は10年以上前のあの時の「発作」を考えました。確かに将来が見えず、転職にあくせくしていた時期でした。上司のハラスメントも激しく、不眠も結構ありました。診断業務でも強いストレスがかかることがあり、初めて帯状疱疹になったこともありましたね。今から考えると自分が思っていた以上に強いストレスがかかっていたのでないかと感じますが、その気持ちを無理に押し殺して無視していた気がします。僕は結局診断を受けなかったので原因がはっきりわかりませんが、おそらくこの「冠れん縮発作」か「たこつぼ型心筋症」のどちらかでなかったかと思います。どちらもストレスから来る交感神経の過剰興奮で筋肉の異常な収縮が起こり、じわりと続く胸痛が特徴です。もしも自分が熊本氏と同じように「心肺停止」となってしまったら、どうなったか?たとえ助かっても熊本氏のように高次脳機能障害になってしまったら、今の仕事はまったくできません。退職しても医師として働くわけにもいかず、家族ともども困窮したでしょう。危ないところでした。その後自分はどうなったか?というと、この10年間そういう発作はまったくありませんでした。一言で申して新しい職場に異動して、ストレスがぐんと減ったことが大きかったのでないかと思います。あのままあのイヤな仕事場にずっといたら、とんでもないことになったかもしれないと、今ヒヤッとする思いです。あの時辞めて本当によかった!あまりハッピーな転職でないと思っていましたが、実は「天佑」だったのでないか?と今思います。あと、この頃から降圧剤を服用し、カルシウム拮抗薬などを使っていることも影響している気がします。


 熊本美加氏の父親は「泌尿器科医」として登場します。どういう方なのかな?と思って調べたら、父親の熊本悦明氏は札幌医大泌尿器科の名誉教授でした。男性医学では高名な先生で、そちらの方面では多数の活動がありました。しかし、まさか娘がそういう病気になって驚いたことでしょう。熊本悦明氏は2022年に亡くなっていますが、ちょうどこの本が刊行される1月くらい前です。悦明氏を追悼する文章がネットで多く見つかりますが、92歳にして現役医師で直前まで働いていたようです。すごいと思います。しかし、「突然亡くなった」と皆さん書いています。血管障害、脳卒中か心疾患だったのでないでしょうか。92歳まで生きれば天寿と言えますが、熊本家にはそういう血管異常にまつわる因子があるのかもしれませんね。しかし考えてみると、自分の友人でも還暦前後で、心筋梗塞で死んでしまったり後遺症が残ってしまったりした者が何人かいます。みんな働きすぎだったな。人間だれもがいずれ死を迎えます。しかしそれが心臓のせいで早く来てしまうのはちょっと残念です。もうこの歳になったのだから、多少わがままでもなるべくストレスを遠ざけるのが賢明な生き方でないかと思います。なお、この本で期せずして済生会中央病院の救急を知りました。僕も実習でとてもお世話になった病院ですが、ドクター達は(看護師さんも)すごい働きぶりでした。とても勉強になったことを思い出します。


「山手線で心肺停止!」 熊本美加著 講談社 2022.6.20

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