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映像の世紀「大東亜共栄圏の3年8か月」 〜「戦メリ」の追憶



ロシアの前近代的で非道なウクライナ侵攻をみて、第二次世界大戦のヒトラーの狂気を思い出すのは私だけでしょうか。中国の軍事強大化が進み、アメリカの政治がどんどん変質して行く今、再び恐ろしい戦争時代に突入するのでないかと危惧します。


 日本が真珠湾攻撃で第二次世界大戦に突入してから、破竹の勢いで中国から東南アジアに南下しました。その時占領した東南アジア各国で、日本は何をしたのか。今回焦点のひとつが当たったのは、インドネシアです。日本軍の宣伝班で文化部隊長として活躍した町田敬二大佐が紹介されていました。占領当初、インドネシアの国民歌「インドネシア・ラヤ」(偉大なインドネシア)を歌うことをインドネシア人に解禁し、オランダ植民地時代に抑圧されていた民衆の心を掴みました。


 それに対して同じ東南アジアでもフィリピンではアメリカ軍と協力したフィリピン軍の強い抵抗に遭い、結果として「バターン死の行進」で多数のフィリピン人・アメリカ人捕虜の死を招きました。フィリピンでは日本軍が強い恨みをかったのは間違いありません。最近親しい先生で大学教授を定年退職した方と、メールで近況を伝え合いました。在籍時研究室にアジアからの留学生をかなり受け入れていて、定年後その元教え子達を訪ねてみたそうです。フィリピンの教え子を訪ねた時パーティに招かれたそうですが、その時会ったひとりから第二次世界大戦で日本軍がフィリピン人にした数々の非道な行為を聞かされたそうです。周囲のフィリピンの方々はいささか鼻白んだ雰囲気だったとのことですが、戦後80年近く経つ今も彼らが過去を忘れてないことは我々として深く胸に刻むべきでしょう。


 そういう根強い反感にも配慮してか、日本はフィリピンに名目だけとはいえ独立を与えました。それに対して石油資源の豊富なインドネシアは、最初から死守する気満々だったのですね。絶対に独立などさせず石油供給元として日本に隷属させるつもりだったことを示されています。インドネシア占領後わずか1年経たずしてミッドウェー海戦で日本はアメリカに惨敗し、たちまち劣勢に追いやられます。南方からアメリカ軍に攻め込まれ、焦りが濃かったのでしょう。日本陸軍は当初の宥和政策をかなぐり捨て、露骨なインドネシア搾取が始まり、インドネシア人も日本に失望していきます。同時に町田も軍人でありながら、上層部の政策に失望していく様が語られています。


 「南特」と呼ばれた南方特別留学生として、日本に東南アジア各国から若者を招いた事実は初めて知りました。各国の王族や政治家の子弟が多く、半ば人質の意味もあったようです。しかし映像で視る限り、様々な教育が施されていたのも事実と感じます。戦後成長した彼らが福田赳夫首相を取り囲んで談笑する風景は、感慨がありました。
 日本の敗戦後、日本に復員した町田敬二がどうなったのかにも焦点が当たっています。町田はラジオのニッポン放送を興し、そしてあの「オールナイトニッポン」をプロデュースしたのです。町田が「僕の人生はいろいろな浮き沈みがあったが、戦後は白星だった」と誇らしげに語る音源も紹介されていました。町田敬二は平成の時代まで生き続け、93歳で死去しました。


 第二次世界大戦は決して過去の話でなく、今の我々とも深く関係しています。今年坂本龍一が死去して、改めて彼も出た「戦場のメリークリスマス」を視ました。学会でリスボンのホテルに泊まった時になぜかテレビで放映されていた戦メリを視て以来だから、20年ぶりか。何度視ても傑作だと思います。この映画の舞台はまさに今回「映像の世紀」で捉えられたインドネシアのジャワ島を占領した日本軍です。デビッドボウイ演じるジャック・セリアズ少佐に、坂本龍一演じるヨノイ大尉が心奪われていくシーンには、何ともいえない男の色気が感じられます。監督の大島渚もそうですが、漫画家の手塚治虫もこういう演出がうまかったなと思います(「MW」ムウ)。極限に追い込まれた男達がどのような心理に達していくのか。美しいと感じますが、同時にそういう極限を招く戦争がいかに残酷なものか、戦争時代に再び突入しそうな今深く考えています。