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「きのこの自然誌」 〜キノコと生態循環

【きのこを生で食べるとどうなる?】 〜いまだに生食推奨が(゚Д゚ )!


ヒューマニエンス 〜「植物」
【きのこを生で食べるとどうなる?】 〜いまだに生食推奨が(゚Д゚ )!


幼稚園の時、近くの大学のグラウンド片隅にボロい綱がとぐろを巻いて積まれていました。綱引きに使うような奴。ある日見たら、白いキノコが点々で生えているでありませんか!昨日までなかったのに驚異です。僕は早速それを抜いて、自宅で栽培しようとしました。一生懸命抜いていると、大学生のお兄さんが駆け寄ってきます。「何してるの?」と訊くので「家に持って帰る」と答えました。「それね、食べると毒だよ。絶対食べちゃだめ」と真剣に忠告されました。「食べるんじゃなくて植える」と答えましたが、お兄さんは「何言ってんじゃ、このガキは?」と思ったことでしょう。そのときグラウンド近くの砂もバケツに入れて持ち帰り、木箱に敷いた砂に白いキノコを植えました。明くる朝ベランダを見たら、キノコはすべてぺしゃんこにしおれていましたよ。今調べるとこんなキノコでした。


カラカサタケの仲間らしい。毒性がないカラカサタケの仲間のようですが、私は食べることに当時興味なし。ひたすらその形に魅入られました。それ以来、キノコは関心事です。その後は食べることはもちろん関心事となり、いろいろキノコ本を買っては読みを繰り返してきました。フランスにいた時は、アールヌーヴォーの工芸家エミール・ガレの「ひとよたけのランプ」もナンシーにある「ナンシー派美術館」l'Ecole de Nancyで観ました。洋の東西を問わず、キノコの形に興味あるひとは多いのだなと思いました。


 今回紹介する本は、小川真氏という農水省・森林総合研究所に勤めていた先生が書いた本です。今まで読んだキノコ本のほとんどがアマチュアの愛好家によるものですが、本書は一般書ながら、キノコ研究者としてキノコの科学について詳しく追及した内容です。読んだ感想として、「キノコは生態循環の中を自在に動き回る変幻自在な存在」です。普通の動物とか植物とかは栄養摂取は自律的におこないます。ところがキノコはその栄養摂取で、他の生物と持ちつ持たれつの関係性が非常に強いです。


 マツタケの人工栽培が困難なのはアカマツとの共生関係で生きるキノコであるせいですが、実はそういうキノコと共生関係にある植物は非常に多いのですね。植物に必要なのは肥料と水と光だけでなく、共生するキノコ類の真菌を必要とすることが多いようです。片利共生ではなく、キノコも植物の栄養となっているとのことですが、もしかするとキノコ毒と呼ばれる一連のアルカロイドは植物の生態防御にも役立っているのでないでしょうか(本書ではそれについての言及はないです)。ラン科植物はキノコとの共生が特に重要です。本書ではクマガイソウとキノコの共生に触れていますが、頷けます。私もクマガイソウを栽培した経験がありますが、実によく増えました。ところが腐葉土を入れてさらに肥培しようとしたら全滅してしまいました。おそらくクマガイソウの共生菌にとって好ましくない菌種が腐葉土にいたせいなのでしょう。腐生型キノコとして木材産業方面で恐れられているナラタケも、オニノヤガラというランはそれを共生させてその栄養だけで育つ、つまり光合成をしないで済ませます。ラン科植物には光合成をせず、共生する真菌からの栄養だけで成長するものが結構ありますが、間接的な腐生植物といっていいと思います。


 発光キノコ、毒茸のツキヨタケが有名です。菌糸でも光る種類があるのか。ルシフェリン型だそうなので、現在遺伝子の標識で多用されるオワンクラゲのGFPとは違います。ホタル型の発光です。しかしなぜ光るのか?生態学にどういう利点があるのかさっぱりわかりません。現在はもっと強い発光を示す「シイノトモシビタケ」が有名ですが、謎ですね。子実体の発光には虫やナメクジをおびき寄せる作用があるかもしれません。


 石炭の産出が古生代末期に限定されるのは、この時代まで木材のセルロースを分解する生物しかいなかったのが原因と書いてあります。キノコなどの真菌類はもうひとつの木材成分のリグニンも分解できるため、キノコ類が発展した中生代以降は木材が粉々になり、石炭ができなくなったと。これは初耳な話ですが、頷けます。


 一番最初に出てくる話「雷の落とし子」で小川先生は落雷によるキノコ発生を否定しています。単に落雷が起こるような湿った気候が誘導するだけだと。しかし、これは現在肯定されている説です。朝日新聞から引用します。

雷落とすとキノコ育った 岩手大成果、言い伝えがヒント

2009年10月27日17時38分


高圧電流をかけてキノコの生育を活性化させ、収量を増やす研究が盛岡市で進められている。名付けて「かみなりきのこ」。適度な電圧をかければ従来の2倍以上の収穫量が得られる成果が実証された。キノコ栽培だけでなく、野菜など他の農産物にも応用できる可能性があると、関係者は期待している。


 岩手大学工学部電気電子工学科の高木浩一准教授らのグループが、4年前から盛岡市玉山区藪川の同市外山森林公園で研究を進めている。岩手県洋野町の食品企業、森林公園を管理する盛岡市森林組合などとの産学連携だ。


 ヒントは「雷の落ちたところにはキノコがよく生える」という昔からの言い伝え。高圧電流の産業応用が専門の高木准教授は、周波数の高い電圧で細胞などの働きを変える技術を応用、蓄電器(コンデンサー)を4台並べて直列で高圧電流をキノコの菌床や菌を植えたホダ木に流す装置を考案した。


 昨年度まで3年間の実証実験では、長さ90センチ、直径10センチのシイタケの菌をうえたホダ木に、キノコ発生時期の2週間前から1カ月前の間に5万ボルトから10万ボルトの電圧を1万分の1秒ほどかけると、発生量が大幅に増えた。ホダ木1本あたりの収量は、電圧をかけない場合に比べ最大で約2.2倍。ナメコで1.8倍、クリタケで1.6倍、ハタケシメジでも1.3倍となった。この10月にも実験で大量のハタケシメジが収穫できた。


 メカニズムの詳細はまだよくわかっていない。高電圧をかけるとがん細胞が「自殺」を始めることが他の研究機関で知られており、適度な強い電流の衝撃を受けて「危機感」を抱いたキノコの菌糸が、子孫を残す本能で活発に生育している可能性があるという。ただ、マイタケは電流をかけると、死滅してしまったという。

誘導効果は電流の強さとキノコの感受性によるのでないか?以前植物におけるカルシウム電流が刺激を伝える話を聞きました。粘菌類ではカルシウム電流による分化調節があるのは、知られています。真菌類では調べた範囲で研究報告はありませんが、あるんじゃないかな?と私は思います。


 小川氏は京都大学農学部卒業で1967年に大学院博士課程修了し、1968年に現在のつくば市にある農林省林業試験場に就職しています。大学も農林生物学科なので、キノコ研究一筋の人生だったのでしょう。見た目は「ゲゲゲの鬼太郎」そっくりだったと門弟の一人が後書きで書いていますが、世界的に有名なキノコ学者だったそうです。2021年に亡くなりましたが、幸せな人生だったように思えます。今みたいに競争が厳しく、すぐ応用できる研究ばかり重用される研究界からみると、うらやましい限りです。


「きのこの自然誌」小川真著 山と溪谷社 2022.2.5