赤エイの赤ワイン蒸し 〜東京會舘らしい逸品
丸の内にある「東京會舘」のヴァイキング企画に行きました。東京會舘、都内界隈の方でないとあまりご存じないかもしれませんが、戦前から丸の内にある由緒正しい宴会施設です。元々は同じ丸の内にあるパレスホテルと同じ経営でしたが、今は完全に分離しています。2015年までは独立したビルでの営業でしたが、丸の内の再開発にともない、富士ビルヂング、東京商工会議所ビルの3棟が一体で建て替えられ、2019年から合同の「丸の内二重橋ビル」の低層階に入る型で営業を再開しました。「東京會舘」は料理が美味しいことで有名です。
今回もいろいろ美味しいものがありました。その中で特に気に入ったのが「赤エイの赤ワイン蒸し」です。館内のレストラン「プルニエ」はフランス料理で特に魚介料理を得意としますので、そこからの出品でしょうか。写真のように料理は冴えない色ですが、赤ワインとバターがよく染みこみ、あっさりながら旨さを感じさせてくれます。エイのバターソースはフランス料理として超高級というわけでないですが、如何にもフランスらしい料理です。ご存じのようにエイやサメのような軟骨魚は老廃物のアンモニアを尿素に転換し、体内浸透圧調節にも利用しています。そのため死んで古くなってくると体内の尿素が分解してアンモニアと二酸化炭素に戻ってしまい、強烈な臭気を発します。従ってエイを美味しく食べるためには、極力鮮度がよいものを使用する必要があります。ヨーロッパでもエイを食べる習慣があるのは、フランスくらいでないでしょうか。イギリスは言うに及ばず、イタリアやスペインのような南欧でも聞いたことがありません。。今回東京會舘で提供されたものは完璧でした。フランスにいた時、何度か食べたエイのバターソースを懐かしく思い出しました。僕がフランスでエイを食べるようになったのは、斉須政雄氏の書いた「十皿の料理」の影響が大きいです。斉須氏は三田でフランス料理店「コート・ドール」を開くオーナーシェフですが、フランスでの修業時代の経験を「十皿の料理」に託して、つづったものです。その一皿が「エイの焦がしバターソース」でした。とても美味そうに書かれており、それが切っ掛けでよく食べるようになりました。
日本に帰国してもこの味が忘れがたく、時々自分でつくります。冬の寒い時期に北方のエイの「カスベ」が魚屋によく出回ります(正確には「ガンギエイ」)。なるべく入荷したての新しいカスベを捜し、家で調理します。調理法は簡単です。「焦がしバター」はつくるのが面倒です。たっぷりのバターを火で溶かし、白ワインを加えてソースをつくります。軽く塩したエイの切り身を放り込んで一煮立ち。これでもう出来上がりです。本当は瓶詰めのケーパーを添えた方がいいですが、なくてもOK。もうこれで美味しいお酒のあてになります。カスベはあんまり売れてないみたいだけど、もったいない。ちなみにうちの家内も食べません。何がどう気に入らないのかわからないけど、一口くらいしか食べない。美味しいのになー。
ところでお隣の韓国ではこのカスベをわざと腐らせて食べる習慣があります。「ホンオフェ」というそうですが、wikiから引きます。
ホンオフェ(朝: 홍어회、日: 洪魚膾)は、朝鮮料理のひとつ。ガンギエイ(洪魚:ホンオ、こうぎょ、홍어)の刺身、あるいは切り身を壷などに入れて発酵を促進させた保存食[1]で、アンモニアによる臭気が大変に強い。朝鮮半島南部ではカオリフェとも称する。人を選ぶ料理であるが、産地では高級料理として扱われ、冠婚葬祭の際に供される料理となっている。
韓国全羅南道の港町である木浦地域の郷土料理で、ガンギエイの切り身を壷の中でオガクズや堆肥の発酵熱を利用して4日ほど発酵させた保存食である。発酵が進むにつれて身が柔らかくなり、美味とされる。プサンやソウルなどでも食するが多くは軟骨が付いたエイの切り身(フェ、刺身)で[2]、食感はコリコリとして風味はさっぱりとしたものが多い。長時間接触するとアンモニアが皮膚や粘膜を荒らすため、躊躇せず食べる必要がある。
ちと怖いね。そんな無理無理古くして発酵させなくても、新鮮なうちにさっと調理したらいいと思うのですが。
今回はこの「赤エイの赤ワイン蒸し」、二度も取りに行ってしまいました。東京會舘のヴァイキングでもそんなに売れているように見えませんでしたが、食わず嫌いの方も是非ご賞味あれ。その滋味は驚くばかりです。
このブログへのコメントは muragonにログインするか、
SNSアカウントを使用してください。