小倉智昭さんの癌死 〜膀胱癌に思うこと
先日泌尿器系の悪性腫瘍について、最近の知見をチェックしていました。泌尿器科系の癌でもっとも多いのは、前立腺癌を除くと膀胱癌です。膀胱癌で真っ先に思い浮かぶのは松田優作。末期状態になりながらも俳優として最期まで仕事を続けたということで、強く印象に残っています。ただ有名人で膀胱癌になったひとを調べていくと、意外にも最近は治療で克服した話がよく出て来ます。そのひとりが小倉智昭さんでした。「そうか、最近は治療法の進歩で膀胱癌の予後も変わってきたのか」と思っていた矢先、小倉智昭さんの死去が公表されました。NHKからです。
アナウンサーの小倉智昭さん死去 77歳 情報番組で司会務める
2024年12月10日 13時57分
民放の情報番組で長年、司会を務め軽妙な語り口で人気を集めたフリーアナウンサーの小倉智昭さんが9日、亡くなりました。77歳でした。
小倉智昭さんは1947年に秋田県で生まれ、大学を卒業後に現在のテレビ東京にアナウンサーとして入社して、競馬中継の実況などで活躍しました。
1976年にフリーになると、その巧みな話術で民放の人気クイズ番組「世界まるごとHOWマッチ」のナレーションを務めるなど、さまざまなテレビ番組やラジオで活躍しました。
1999年から司会を務めた民放の朝の情報番組「とくダネ!」では、軽妙な語り口と歯に衣着せぬコメントが人気で途中、休養もはさみながら22年間にわたりお茶の間に親しまれました。
小倉さんは2016年にぼうこうがんを患い、その後、がんが肺に転移し闘病生活を続けながらテレビにも出演するなどしていました。
所属事務所によりますと、小倉さんは入退院を繰り返しながら治療を続けてきましたが、今月に入り、体調が急変し、9日午後、家族に見守られながら自宅で亡くなったということです。
77歳でした。
松田優作がわずか39歳で亡くなったことを考えると、小倉さんはそれでも随分長く人生を歩めたと感じます。しかし、膀胱癌はやはり厄介そうです。
腎盂から尿管、膀胱の内壁は移行上皮という特殊な上皮で覆われています。移行上皮の最大の特徴は、多層に見えながら全ての上皮細胞が基底膜と接着していること。下の図を見てほしいですが、脚が長いのや短いのが重なり合っていても、全部「地に足が付いている」のです。
なんか「ムーミン」にでてくるニョロニョロみたいだな。
これなぜこうなっているかというと、よくある説明は「伸縮性に優れている」です。膀胱は尿を溜める袋なので、蓄尿によって伸びたり縮んだりですが、それに対応しているわけです。しかし腎盂や尿管は水腎症にでもならない限り、その伸縮性は発揮されません。あまりすっきりしない説明です。
腎盂癌、尿管癌、膀胱癌いずれも移行上皮癌ですが、一般的な特徴は「乳頭状に盛り上がる」です。内腔に向かって増殖した癌細胞がどんどん塊状にせり上がってきますが、つまり「地に足が付かない」状態になるわけですね。移行上皮細胞は腫瘍化すると基底膜との接着性を失うのは興味深い特徴です。
移行上皮癌のもう一つの特徴は手術しても尿路系での再発が多いことです。癌細胞が何らかの型で腔内転移をするなら、下部に再発は理解できます(腎盂にできた後、膀胱で再発とか)。しかし腎盂癌や尿管癌のように膀胱を挟んで対になっている器官だと、対側に再発することもあります。膀胱から尿が逆流しないと腔内転移では対側の再発は説明できません。これ不思議。考えられるのは「癌ができる状態になる時、独立にあちこちが前癌状態になっている」でしょうか。再発癌のゲノムを解析すればポリクローナルかモノクローナルかすぐわかりますが、もうとっくに調べられているでしょう。膀胱癌の原因としてアニリンなど化学染料に含まれる変異原性物質の暴露が昔から知られています。尿路を伝う尿中の変異原性物質があちこちで癌化を促すのかもしれません。工場での変異原性物質暴露が少なくなった今も、「喫煙」が膀胱癌リスク因子であることは知られています。禁煙は言うまでもないが、おしっこはなるべく我慢せず、そして水をよく補給して排尿を促進した方がよさそうです。



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