ユリ根をいただく 〜真冬の味わい
寿木(すずき)けいさんは全然知らない作家ですが、料理を中心に随筆を書くひとのようです。出張先で本屋に寄った時、店頭に新刊文庫平積みに「わたしのごちそう365」という彼女の本がありました。この本「レシピとよぶほどのものでない」とか表紙書きしてあって、「んじゃあ、なぜ出版した?」と意地悪く考えさせて読者を引っ張ります。買ってしばらく放置でしたが、ふと電車で読み出しました。献立は4月の春から始まるけど、今は1月だから最後の方から読んでいきます。なかなかどうして割とおもしろい料理の数々が食べるシチュエーションを合わせてレシピ紹介されています。最近多い手作り料理紹介込みのドラマみたいな雰囲気(シングル女性が主人公の)です。
さてその中にちょこっと、「百合根のホイル焼きは、醤油とバター」と書いてありました(レシピなしで「祝いごと」の章中にコメントのみ)。これ読んで、「あ、これ今食べないとなくなっちゃう」と思いました。百合根はお正月用品として年末店頭に並びます。しかし、普通の店だとその一度限りで補充がないです。まあ特別な日のご馳走みたいなものですから、しょっちゅうは食べないですよね。「そうだ、アトレの八百屋に「百合根106円」とか出てたな。この物価高の時代に格安。早く買おう!」と、心に決めました。帰宅途中にアトレに寄っておがくず箱をがつがつと漁り、結構あったので6個も買いましたよ。
私はずぼらなので、ホイル焼きとか面倒に感じます。正確に言うと、百合根は火が通りやすいので、ホイル焼きだと時間加減が難しいです。火が通り過ぎると、折角のユリ根がジャガイモみたいな食感になってしまい、全然有り難みがありません。そこでユリ根に混ぜる具材を先に調理し、鱗片を剥いた生のユリ根に混ぜてチンすることにしました。レシピなんて全然なく、帰宅途中の電車内で考えました。ユリ根を剥くと、土というか泥が中心部まで結構入っています。底部の根を切って鱗片を細かく分離し、ざるに空けて水で何度もよく洗います。今回の具材はお正月に買った骨付きハムの残りを刻み、鶏スープで煮て冷凍えびを混ぜました。ほどよく煮詰まったところで、ボールに入れたユリ根に「スープだけ」かけます。そしてユリ根とスープをそのままレンジで3分半くらい。量にもよりますが、加減をみて火が通り過ぎないようにします。火が通ったら具材も混ぜて出来上がりです。
早速いただきます。うまいわあ。ちょっと固めのユリ根がほくほくと甘く、ハムの塩味やえびの滋味とよく合います。日本酒が進みますね。
ユリ根といえば、「京都人の密かな愉しみ」を思い出します。「桐タンスの恋文」で林遣都が主演した回です。林遣都演じる辻純正(つじじゅんせい)は洛志社大学文学部4回生で、一家の稼業は「洗い屋」です。「木で出来たものなら家具から家まで何でも洗う」商売だそうで、さすが古都京都ならではの商売です。純正には東京から来た同級生の柏木文香(演 - 谷村美月)というガールフレンドがいて、稼業の洗い屋を継ぐか東京に出て文香と暮らすか悩みます。一旦は東京の出版社の就職を決めて、父親に家を出る覚悟を純正は告げます。その告白の時の晩の食卓に出たのがユリ根です。父親は好物のユリ根は何処かを母親に尋ねると、「飛竜頭の中ですわいな」と答えます。うーん、なるほどがんもどきをユリ根入りで手作りか。これは難度が高い料理法です。飛竜頭の調理まで考えてユリ根の火加減を考えないと、ぐずぐずになってしまう。どんなものかよくわかりませんが、京都で食べてみたいなあ。しかし今は息子が京大を卒業して京都を離れてしまったので、実現はなかなか難しいです。純正はその後どうしたのか。結局京都を離れませんでした。その切っ掛けがタイトルの「桐タンスの恋文」なのです。詳しくは本篇をご覧頂くとして、京都帝国大学の昔から東京の学生で京大に遊学する者は結構いたのでしょうね。


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