履歴書「一条ゆかり」 〜懐かしい漫画家
(一条ゆかりさん 日経新聞から)
今月の日経「私の履歴書」は一条ゆかりさんです。「一条ゆかり」と言われてすぐわかるサラリーマン諸氏はどれくらいいるか?友人に「履歴書に一条ゆかりが出てる」と言ったら、「何?ストリッパー?」と言われてしまった!一条さゆりじゃねーんだよ。第一さゆりはとっくに死んどる。先月の履歴書の伊藤忠会長・岡藤正広のアホくさいサラリーマン人生謳歌に辟易としていた私には、格好の口直しです。
妹が講読していた少女コミック誌「りぼん」に出ていた一条ゆかりは当時から大人気作家でした。特に「砂の城」。あれ、小学生の女の子に理解できたのかな?まあ女子はませているとはいえ、かなり高度な心理のやり取りです。なんといっても母子相姦にも通じるドラマを扱っており、「禁断の愛」といった感じでした。それに絵がうまい。目に星が飛んでいる少女漫画のヒロインたちとは一線を画しており、ちょっと普通の少女漫画家とは違う存在でした。
一条ゆかりは本名「藤本 典子」で岡山県玉野市に生まれています。上は男ばかりの4人兄弟の末っ子ですが、両親の没落で幼少時は苦労しています。一条ゆかりの漫画に出てくる人物は垢抜けた印象で所帯臭さを感じさせませんが、そういう経験があっただけに貧乏を描くのを避けてきたようです。しかし、漫画修行に励みたいからわざと進学校を避けて商業高校に進んだのか。一条ゆかりの漫画描き内職に励まれた高校の先生方はさぞ苦々しい思いだったことでしょう!一条氏の母親は「村上水軍」末裔の村上家の出身だそうですが、私が知る村上水軍ゆかりの岡山の「村上さん」たちは例外なく、地頭が良いです。単なる海賊ではなく優秀な家系なのでしょう。
一条ゆかりは日本酒と食が好きなようですが、僭越ながら私とは趣味が合いそう(笑)。私生活もなかなか楽しそうで、「7年」「7年」とさかんに強調する年下編集者との結婚生活も、結婚式の派手さが目立ちます(しかし女はなぜあーも結婚式披露宴にこだわるの?)。彼女が手がけた作品で「有閑倶楽部」はもっとも売れたそうですが、あれはコミックとしておもしろかった。「聖プレジデント学園高等部」というハイソの子弟が通う男女共学の高校を舞台に、生徒会役員の男女6人のアクションコメディです。何となく青山学院高等部っぽい名前だが内容は慶應の雰囲気の方が近そう。しかし、1970年代当時の慶應附属高で男女共学校はなかったです(のちに慶應湘南藤沢キャンパス(SFC)に共学の中高ができた)。一条ゆかりも述べているようにこの作品は単なるドタバタだけでなく、いろいろうんちくを盛り込んだ背景があり、大人が読んでもおもしろかったです。夏休みの信州で幽霊と出会う話も終わりの場面でうろこ雲を描き、「見て、空があんなに高くなっている」と秋の気配と夏休み終了の名残惜しさを上手く表現してました。
「有閑倶楽部」で松竹梅魅録が飼うコリーの警察犬「男山」はモデルがあったのですね。一条ゆかりの愛犬「蘭丸」ですが、まるで人間みたいな情愛の深さを示すエピソード、思わず微笑しました。
漫画家デビューも含めて弓月光(ゆづきひかる)と公私共々親しいことは初めて知りました。弓月光も出だしは少女漫画で、出世作は「エリート狂騒曲」でしょう。エリート狂騒曲は40年以上前の作品ですが、現在の中学受験にも通じるリアルをよく描いていました。今調べたら弓月光は兵庫県の「淳心学院」の出身で、この漫画は実体験に基づいていたのでしょう。淳心学院は今でこそ進学実績があまり冴えないですが、我々の大学受験の頃は全盛期で関西の雄でした。大学同級生にも出身者がいます。一条も弓月もデビュー当時高校生で、弓月は受賞時学生服を着ていたそうです。しかし、互いに何日も泊まりがけで漫画アシスタントをしたのに、二人が男女の関係にはならないところがおもしろい。まさに「戦友」なのでしょうね。
あと1週間ほどで連載終了ですが、残りも楽しみにしています。折角だから一条ゆかりのエッセー集を買って読んでみようかな。

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