世界初!海中の藻『ビゲロイ』の培養に成功 〜サイエンス誌最優秀論文
僕にとってとても興味深い記事が出ていました。高知放送からの引用です。
世界初!海中の藻『ビゲロイ』の培養に成功 高知大特任講師の萩野さん サイエンス誌最優秀論文に【高知】
3/6(木) 19:00配信
世界的な科学雑誌サイエンスの年間の最優秀論文に、高知大学海洋コア国際研究所の特任講師・萩野恭子さんなどが手がけた論文が選ばれました。
萩野さんが研究しているのが、海水に漂う小さな藻。世界の注目を集めた理由にスポットをあてます。
この藻に関する論文を発表した著者の1人が、高知大学海洋コア国際研究所の特任講師・萩野恭子さん(52歳)です。岐阜県出身で高知大学理学部、大学院を経て北海道大大学院博士課程を修了。2005年にビゲロイの研究を始めました。
萩野さんなど研究グループが手がけた論文はサイエンスの表紙に掲載されただけでなく、さらに2024年の10大ニュースに選ばれ、最終的に年間の最優秀論文に選ばれました。小さな藻(ビゲロイ)の培養に世界で初めて成功し、生物の進化の究明に大きな功績を残したことが高く評価されたのです。
萩野さんが研究する海中の藻「ビゲロイ」。わずか100分の1ミリから100分の2ミリほどの大きさです。
同じ原生生物で光合成能があるミドリムシ(ミドリムシは一応動物ですが)と同じくらいの大きさです。しかし、ビゲロイにはミドリムシと同じ光合成以外に、もうひとつ特殊能力ががあります。
萩野さんなどの研究の何がすごいのか。
その1つが、ビゲロイが自分で窒素を取り込むことができることを初めて確認したことです。
窒素はアミノ酸やタンパク質の主な元素で、体づくりに欠かせないものです。空気中の8割と大部分を占めていますが、直接空気から取り込むことはできず、植物は根から、動物は食べ物から取り入れます。
一方、ビゲロイは窒素をアンモニアに変える細菌を体内に取り込む「細胞小器官化」をしていて、自ら窒素を取り込むことができるのです。
これは萩野さんとアメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校チームとの共同研究で分かったもので、酸素を使ってエネルギーを作るミトコンドリアや、植物の細胞内にあり光合成をおこなう葉緑体など世界でもわずかしか分かっていない細胞小器官の例として歴史的な発見となりました。
この発見で、将来的に窒素肥料を必要としない農作物の生産につながる可能性があるということです。
窒素固定能がある植物というとマメ科が有名ですが、これは根に根粒菌と呼ばれる細菌群(複数種が関係)を住まわせて、そこからアンモニアなどの窒素化合物を回収します。ビゲロイは体内(細胞内)に窒素固定菌を取り込み、細胞小器官化している点(後述のニトロプラスト)が特徴的だと言っています。空気中には窒素分子がたくさん含まれていますが、窒素分子は反応性に乏しいです。従ってアンモニアなどの窒素化合物を窒素分子から生成するのは大変です。大学受験の化学で定番出題のハーバー・ボッシュ法は20世紀初頭の発明ですが、いまだにそれを越える工業的なアンモニア合成法は見いだされておりません。ビゲロイのニトロプラストの研究が進めば、新しい窒素固定法が生まれる可能性があります。
さらに、萩野さんなどの研究のすごい所、もう1つが「ビゲロイの培養」です。
約20年にわたってビゲロイの研究を行ってきた萩野さん。2006年からはビゲロイの培養を試みる研究を始めました。しかし、失敗ばかりが続いたそうです。
海水を採取し、そこから顕微鏡で小さなビゲロイを見つけ培養を試みることを繰り返しましたが、1度も成功することはありませんでした。
そこに助け舟を出してくれたのが、高知大学で自身も藻の研究を行う足立真佐雄教授でした。
足立教授は高知県産のところてん由来の培養液を使うことを萩野さんに勧めたところ、ビゲロイの安定培養に初めて成功。培養の研究を始めて11年。2018年のことでした。
この培養の成功により研究が大きく前進。ビゲロイが窒素を自ら取り込めることが明らかになったのです。
足立教授も今回の論文の共同執筆者として名を連ねました。
萩野さんは今後、海外の海でのビゲロイの採取に向け、近くハワイに向かうということです。
サイエンスの最優秀論文に選ばれ科学の飛躍に貢献した萩野さん。研究への熱量はさらに大きくなりそうです。
なるほどところてんか。寒天は多糖類ですが、ビゲロイにとって栄養源として重要なのかそれとも増殖の足場基質として重要なのか、そこがちょっとわからない。しかし、この発見はとても重要です。ビゲロイのニトロプラストが宿主依存性に増加するかどうか見極めるには、分裂時の観察が欠かせないからです。
内容がかなり専門的なせいか、ヤフコメはわずか一件です!
rv*****
1日前
小学校の算数の授業で、に同じ大きさの正三角形、正方形、正5角形で立体を作ったことがあった。正三角形なら正三角錐、正方形ならサイコロ、正5角形なら、正12面体になる。
ビゲロイ(bigelowii)はその正12面体の形をした海の藻。大きさは15umくらいなので肉眼では見えない。その中にニトロプラストと呼ばれる窒素を固定する細胞の器官(共生生物でない)が見つかり、生物の学会では話題になっている。ニトロプラスはクロロフィルと同様に、遺伝子の中に組み込まれている。
その大発見を支えたビゲロイの培養法を考案した萩野恭子氏は岐阜出身で高知大学理学部地学科に入学して、北大で博士号をとり、その後は数年おきに研究機関の所属を変えつつ研究を続けている。
幕末の志士もいいけれど、高知県民はこういう研究者も自慢に思っていいと思う。
話が逸れますが、このrv*****さんという方、他に書いているコメントを読むと、知識が深く非常に洞察力に富んだ方です。新幹線事故とか機械制御についてのコメントが多く、おそらく工学系のどこかの教授を勤めあげた方と思いますが、何者なのかな?
専門でないであろうこの藻類研究にも示唆に富むコメントを書いていますが、ニトロプラスト?初耳なので調べてみました。そうすると高知大のプレスレリースで、以下が書かれていました。
他の文献も参照しましたが、ニトロプラストは共生体(Symbiosis)と細胞内小器官の中間的構造で、2024年に入ってから注目されています。生物進化学の観点からも非常に興味深いですが、rv*****さんの情報収集力すごいですね!
しかし、正12面体?上の図や写真ではそう見えないのですが、wikiを参照すると
Braarudosphaera bigelowiiは電顕像では確かに正12面体の構造をしています。しかし、上の図のミドリムシみたいな形とどういう関係?youtubeを見ると、生きている時はこんな感じらしい。
どうも正12面体の殻の外にさらに基質を出しているようですね。これが寒天成分と関係するのかな?
ところでこのビゲロイ(Braarudosphaera bigelowii)とは聞いたことがない緑藻です。単細胞だけど珪藻に近いのか?調べたら「円石藻」という初耳の名前。wikiで調べると、
円石(えんせき、coccolith、コッコリス或いはココリスとも呼ばれる)は、円石藻の細胞表面を覆う炭酸カルシウムの構造である。形は円から楕円の円盤型が最も一般的であるが、棒状のものやカップ型のもの、王冠型のものなど多岐に渡る。Syracosphaera 属など一部の円石藻では、一つの細胞が複数の種類の円石を持っている事もある。円石が細胞の周りを覆って形成する球体全体をコッコスフィア(coccosphere)と呼ぶ。
なるほど、ケイ酸(ガラスの一種)を殻にする珪藻とは違うのね。しかし、この炭酸カルシウムの殻がどういう役目か全く分かってないと書いてあります。浮力、防御、光制御、二酸化炭素貯蔵(これはあり得るか)とか諸説が出てます。今から2億年前に出現し、海で生活。恐竜大絶滅を起こした小惑星激突の6600万年前に8割方が死滅したそう。陸生植物より遥かに古い歴史があります。
それにしても、この円石のパターンが多彩でびっくり。ビゲロイの12面体(写真右下)は一つの事例に過ぎないのね
微小世界ですけど、何かデザインパターンに使えそう。雪の結晶みたいに何かを核にして、なにかの物質濃度依存性に成長すると思えます。細胞が2つに分裂する時、この殻はどう移行するのでしょうね?
このようなすばらしい仕事をしている荻野恭子先生ですが、特任講師というので30歳前後かと思ったら、52歳!経歴はrv*****さんも言うように転々としています。
rv*****さんが言いたいのは、荻野先生には特任講師でなくもっとしかるべき処遇をすべきでないか?ということでしょう。私も同感です。特任講師なんて名前の響きは良いけど、要するに1年ごとの契約更改をする日雇い労働者みたいな待遇で、きわめて不安定。高知大学は専任の正教授で迎え入れてしかるべきと思いますが、おそらくポストがないのでしょう。こういうところにも日本の学術研究の衰退を強く感じます。
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