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タイリントキソウ ”銀山湖” 〜どういう由来か知りたい

台湾動物記」 〜魅惑の島台湾に行ってみたい


 タイリントキソウは昔は「台湾トキソウ」の表記が多かったですが、最近は台湾以外のPleione属の種類もよく知られるようになったせいか、台湾トキソウの表記はまず見なくなりました。そもそもトキソウPogoniaは、タイリントキソウPleioneとはまったく違う属のラン科植物です(花色の配置だけはよく似ている)。しかも台湾にも高地にはPogonia属のトキソウが自生しているので、紛らわしいです。


 私がタイリントキソウと出会ったのは、小学4年生の春です。家族で植物園に行った時即売店もありました。ちょうど春先だったので色々な草花や植木の鉢植えがありました。僕が特に惹かれたのが、イカリソウとこのタイリントキソウでした。1つだけなら買っていいと言われたので、ものすごく悩みましたが、型が独特なタイリントキソウにしました。ちなみにイカリソウ属は今でも好きで、園芸品種の「楊貴妃」は大切にしています。


 タイリントキソウは夏になると1枚しかない葉が大きく伸びます。そして秋になると葉は枯れて球根みたいな偽茎だけになります。そして春先になると偽茎の付け根にある芽が伸びてきて花が咲き、その後葉が大きく伸びます。台湾産のタイリントキソウはPleione formosana1種のみですが、Pleione属の主体は中国本土の雲南省からヒマラヤ方面に自生します。今まで色々なPleioneを育ててきましたが、残念ながら東京近郊のマンション・ベランダは夏暑すぎます。どうしても梅雨明けの暑熱に耐えられず、枯れてしまうので断念しました。


 写真はその中で気に入りの”銀山湖”を実家に預けて、育ったものです。"銀山湖"は台湾産のPleione formosanaの亜種と思われますが、標準個体とはいくつか違う点があります。列記すると
・全体に小型の草型で春先の芽吹きが少し遅い
・花容がややほっそりしている
・暑さには標準個体より弱い印象
・葉が2枚出ることが多く、葉が垂れ下がらず立ち上がる
が挙げられます。私思うのですが、この”銀山湖”は台湾に到達したPleioneの祖先型でないでしょうか。Pleioneはインド原産のラン科植物セロジネ(Coelogyne)の近縁属と考えられています。おそらくですがインド亜大陸がユーラシア大陸と衝突する前にあったPleione・Coelogyneの共通祖先が、衝突後にヒマラヤ山脈が隆起するとともにPleione属に独立進化していったのだと思います(私説で根拠なし)。というのはヒマラヤ南斜面に自生するPleione属はみな耐寒性に乏しいからです。耐寒性を獲得したPleioneのみが種子をヒマラヤ山脈から雲南省へと飛ばして繁殖し、そしてその一部がはるばる台湾の高地までたどり着いたのでないでしょうか。台湾にはPleione属はformosana1種のみで、分布域の辺縁であることを暗示しています。またそう思う理由のもうひとつが葉の形です。実はヒマラヤ南斜面のPleioneはすべて2葉で、この点がCoelogyneと一致します。雲南省原産のPleione属は2葉と1葉の種類が入り交じっていますが、台湾のPl. formosanaは原則1葉です。一般に一葉の種類は崖のような傾斜地に自生すると見え、垂れ下がる草姿になります。その中で”銀山湖”は例外的に「2葉が多いこと」が「formosanaの祖先型」の根拠です。


 ところで”銀山湖”には不思議なことがあります。産地名を表すと思われる「銀山湖」に対応した地名が台湾に見当たらないのです(いくら調べても新潟・福島県境・奥只見のダム湖「銀山湖」しかヒットしない)。これは不思議がるひとが多いようです。ただそれとよく似た「竜銀山歩道」という地名が見つかります。台湾中央部で有名な阿里山とも近い地域ですが、

伝説によると、竜銀山は強盗が竜銀(龙银:竜をレリーフした銀貨)をここに埋めていたという事で命名された。このエリアは中海拔の針、闊葉混合林に属し、一年中に霧と雲に包まれていて、昼夜の温度差がかなり大きい。步道沿線の林相は殆ど針闊葉混合林、スキ及び竹林などの組み合わせであり、中段の稜線は非常に良い展望の場所で、遠くまで玉山群峰、阿里山山脈、曾文ダム及び光華、奮起湖と石棹などの村落を遠望できる。


と出ています。如何にもPleioneが自生していそうな環境です。台湾でPleione formosanaは”台湾一葉蘭”というそうで一時開発で絶滅しそうになったようですが、今は保護されています。阿里山はアリサンエビネCalanthe arisanensis(日本のキリシマエビネの近縁種でCalanthe属)の故郷としても有名ですが、阿里山山系にはPleione formosanaの自生があるという記載が別にありました。山のトンネル脇の崖に自生している様子などがネットで見つかります。どうもこの一帯がPleione formosanaの自生地域のようです。”銀山湖”はおそらく竜銀山に自生すると想像しますが、標準個体とどういう関係になっているのか?また自生するとしたら、平地に自生しているのか?将来台湾に旅行する機会があったら、是非確認したいことです。