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「事件記者コルチャック」 〜地獄をさまよう悪霊ラクシャサ

ポワール


「事件記者コルチャック」と言われて、現役世代でわかるひとはほぼいないと思います。アメリカのオカルト探偵ドラマで、1970年代前半に日本のテレビでも放映されました。wikiから引きますが、こういう番組でした。

シカゴの新聞社インディペンデント通信社(Independent News Service,INS)の、冴えない中年事件記者コルチャックは、編集長のヴィンセントに怒鳴られながら取材に走り回るが、彼の関わる事件はなぜか怪物や心霊現象のからんだものばかり。切り裂きジャック、亡霊、狼男、ゾンビ、吸血鬼、果ては宇宙生物までが、次から次へと登場する。コルチャックは果敢な行動で事件の真相をつきとめ、随時テープレコーダーに吹き込んだ取材経過を、タイプライターで記事に起こすのだが、あまりにも常識の範囲を超えた内容のため、いつもボツにされてしまうのだった。

コルチャックはよれよれの服に帽子であまり冴えないですが、少し強引な取材態度でオカルト的な事件の本質を暴いていきます。同じ時期にNHKで放映された「刑事コロンボ」のピーター・フォークと雰囲気が似ています。犯人は怪物だったり吸血鬼だったり、はたまた宇宙人だったりとあの頃のオカルト的雰囲気が充満しています。しかし、そういったクリーチャーのほとんどが着ぐるみ的なもので、怖いとはいえ今から見ると微笑ましくなる造作ばかりでした。


 その中で唯一例外だったのが、表題の「地獄をさまよう悪霊ラクシャサ」。シカゴ場末の古いマンション・ルーズベルトハイツに集まる4人組は毎夜賭けポーカーに興じています。ハイツの夜警をするファインマンが酒を飲むコップを捜しにゴミ捨て場に行きます。肉屋のゴミの骨が散乱し食い荒らすネズミが徘徊する中、ファインマンはゴミを漁る人影を見掛けます。知り合いのヒルマンさんだと気づき声を掛けたファインマンは、「ヒルマンさん」に襲われ食い殺されます。インドの妖怪「ラクシャサ」は見る人が信用する人物に見せかけるが、正体は黒い毛むくじゃらの怪物。「ヒルマンさん」はラクシャサが見せた幻影というわけです。「ネズミに食い殺された」にしては、30分で骨だけになるのは異常ということで、コルチャックが乗り出します。ラクシャサの場面が怖いのは、姿をカメラが映してないこと。ラクシャサの毛むくじゃらの肩越しに、知り合いの幻に愛想良くする犠牲者に接近するカメラワークが実に怖い。その後老夫婦、警官2人組なども犠牲になっていきます。ラクシャサは警官の1人には上司の部長に見え、もうひとりの警官には「ママ」に見えます。そして警官が発砲するピストルを全くものともせず、2人を食い殺す。


 事件があった貧しいユダヤ人が住む街には、なぜか鍵十字を書き殴った跡がたくさんあります。事件が頻発するそこの一角に住むインド料理店が怪しいとたれ込みがあり、コルチャックは潜入しようとします。ところがたれ込んだ老人は塀の外で待つ間、「コルチャック」に襲われて食い殺されてしまう。犯人と間違えられたコルチャックは警察に尋問されるが、編集長ヴィンセントに助けられます。「ラクシュミナ」というインド料理店の老店主は実はラクシャサハンターで、世界で暗躍するラクシャサを殺すため渡り歩いていたのです。死の床につく老店主からボウガンと清めた矢を受け取ったコルチャック。「死にかけたわしに気づいてラクシャサは近づいている」と言われます。外に出ようとすると、コルチャックの通信社同僚のエミリーおばちゃんが暗がりから出て来ます。「あなたの事件取材は私の小説ネタにも使えるかと思ってついてきたの」と言うエミリーに向かってボウガンを構えるコルチャック。もし本物のエミリーだったら間違えでは済まない。手に汗を握る場面です。「これ以上近づくんじゃねぇ!」と言うコルチャック。「やめて!弓なんか向けておっかないじゃないの」と言うエミリー。ついに発射された矢がエミリーのお腹に刺さると、黒いゴリラみたいなラクシャサに戻りもだえながら倒れ込みます。いやー、よかった!


 この話が怖いのは、自分が信頼している相手が実はとんでもないヤツだったというどんでん返しです。よくフレネミーと言いますが、こういう詐欺師はそういうレベルじゃないです。本当に殺されるところまでいかなくても、信用している相手に騙されるのはいわば「魂の殺人」でしょう。「おかしい、なんか変だ」と直感が警告を発していても、「まさか」と打ち消してしまう。こういう葛藤、現実でもしょっちゅうあることでないでしょうか?大谷翔平の通訳だった水原一平を思い出します。


 僕の高校時代の友だちは、大卒後大手企業に就職した後に、仲間の同僚と起業に乗り出しました。時はまさにバブル期で、景気絶好調の時代でした。同僚と一緒に退社して起業を始め、営業もうまくいっていました。ところがしばらくするとバブルがはじけて、経済に暗雲が立ちこめ始めます。その時、その同僚は会社の有り金すべてを持ち出して行方をくらましてしまいました!あとに残るは借金ばかり。会社を清算しいちから出直しとなった僕の友だち。「苦しかった」と随分後になってから僕に話してくれました。ようやく片が付き、宅建士の資格を新たに取った友人は小さな事務所を開業します。「お客様が笑顔になれるようなお住まい取引を斡旋します」とサイトに書かれた文言は、いかにも誠実な人柄の彼らしいなと思いました。ところが開業から数年したある年の大晦日、事務所で仕事をしていた彼は心筋梗塞で倒れ、その日のうちに死んでしまいました。まだ60になる前だというのに心筋梗塞になってしまうとは!その死にはショックを受けましたが、彼が長年耐えてきた苦労が相当なストレスになっていたのでないかと思います。残された夫人にはどうしようもなく、事務所は閉鎖となりました。残されたお子さんたちはまだ大学生だったはずだがどうなったのかな。高校時代あれだけ優秀でAFSでアメリカ留学もした彼。天に召される時、自分の人生をどう振り返っただろうか。久しぶりに事件記者コルチャックの「地獄をさまよう悪霊ラクシャサ」をネットで見て、感慨にふけりました。

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