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韓国の大学受験事情 〜日本と似ている医学部偏重

毎年この季節になると、ニュースで韓国の大学入試の模様が映されます。試験時間に遅れそうな受験生を会場まで警察官がバイクで送ってくれる情景も恒例ですが、何たる過保護と思います。受験は試験時間だけでなく、試験前の準備から始まってるなんて常識だと思うのですが?それは措くとして、今年は大統領の命令で6月急遽「キラー問題」と呼ばれる難問の出題の取りやめが決まり、そのせいか今年は日本でも韓国の大学入試が取り上げられる機会が多い印象です。


 しかし皮肉なもので、難問のキラー問題がなくなったのに試験全体としては難化したそうです。以下はハンギョレ新聞の報道です。

韓国で16日に実施された2024学年度の大学修学能力試験(修能、日本の大学入学共通テストに相当)は、昨年より難しかったと分析され、浪人生と呼ばれる過年度生受験者が入試結果に及ぼす影響にも関心が集まっている。2024学年度の修能受験生のうち、過年度生(検定試験受験生を含む)は17万7942人(35.3%)で、28年ぶりに最も多かった。


 16日、入試業界の説明を総合すると、難易度が高かったという評価がかなり多かった今回の修能は、受験経験のある過年度生の方が現役高校生の受験者より多少有利だという評価が多い。首都圏の主要大学で修能の点数を中心に入学を決める「定時募集」の割合が高くなったうえに、医学・薬学系列志望の高まり、文系・理系が統合された修能などの影響で、過年度生の割合はここ数年急速に増えている。今年は特に、「キラー問題(超高難度問題)」を排除するよう指示した政府の方針により、修能が容易になることを期待して受験した過年度生も増えた。

〜中略

しかし、入試結果にこれといった影響を及ぼさないだろうという見方も出ている。浪人生の中には、いわゆる仮面浪人(大学に通いながら修能を再び受ける受験者)を中心に修能試験の準備に「全賭け」しない学生も多いためだ。「メガスタディ教育入試戦略研究所」のナム・ユンゴン所長は、「今回の修能で仮面浪人生がぐっと増えた理由は、キラー問題排除で修能が易しくなるという期待が大きかったからだ。しかし予想よりも試験が難しく出題され、仮面浪人生が良い結果を得るとは予測しがたい状況だ。仮面浪人生の増加が影響を与えない可能性も高い」と話した。鐘路学院は2024学年度修能の過年度生受験者のうち、仮面浪人生の規模を8万9600人余りと推定した。2023学年度(8万1116人)に比べて8千人以上増えた。

何かよくわからんな。試験問題が難しくなったら準備に十分な時間をかけられた再受験組の方が有利と考えそうなものですが?再受験組は大学の勉強の片手間に受験勉強するから、本腰でない?そんな程度じゃ日本だって受かりませんよ。


 韓国は日本以上に首都圏中心主義だそうで、大学受験もソウル一局集中なんだそうです。その代表がソウル大学校、高麗(コリョ)大学校、延世(ヨンセ)大学校の3つで、通称SKYと呼ぶとは今回初めて知りました。このうちソウル大のみ国立で、高麗・延世の2校は私立です。ソウル大学校は第二次世界大戦まで朝鮮を支配していた日本が創設した京城帝国大学の跡地につくられ、実質日本の東大みたいな位置なのでしょう。高麗・延世はそれに次ぐ日本の早稲田・慶應みたいな位置付けのようです。日本の大学受験事情と異なるのは、首都圏のソウル以外に立地する大学校は国立・私立を問わず、おしなべて低いレベルなことです。日本だと旧7帝大を中心に各地にそれなりの名門大学があり、特に東大と京大は東西を二分しています。韓国の大学でソウル一局集中になるのは、国として日本より小さいことも関係するのでしょう。韓国の国土は北海道より少し広い程度です。


 さて今年の韓国の大学入試報道で目を引いたのが、医学部です。再びハンギョレ新聞から引きます。

今年も大学修学能力試験(修能)が終わった。今年の修能は、ひときわ浪人生が多かった。50万4千人あまりの受験者のうち、現役高校生は32万6千人あまり(約65%)にとどまる。浪人生の割合は、修能導入初期で混乱が大きかった1996学年度以来28年ぶりの高水準だ。3~4大学を束ねて等級で区分する序列化がさらに強固になっているうえ、6月の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領による突然の「キラー問題排除」方針は、修能に強い卒業生を大量に引き寄せた。


 だが、さらに懸念されるのは「医学部への偏り」が及ぼした影響だ。今年初めに取材の過程で出会った大学生のAさんは私立大学の人文系に入学したが、仮面浪人して韓医学部に乗り換えた。修能の点数が上がったため「医歯韓薬獣」へと進路を変更したケースだった。Aさんはもともと哲学に興味があると言っていた。韓医学部は適性に合うのかと尋ねたところ、「通っているうちに適応するのではないか」という答えが返ってきた。もうひとりの大学生Bさんは4浪の末、医学部の合格証を得た。彼は3浪して韓医学部に合格した時、「これくらいなら満足」だと思った。だが医学部に通う友人たちが韓医学部を一段階低くみなしているのを見て、もう一度受験したと言った。「医歯韓薬獣」の中でも細かく序列が付けられていたのだ。

「韓医学部」とは東洋医学を学ぶ学部で、wikiに記載があります。

韓国では西洋医学の医師と韓医師が並立して存在しており、互いの権益保護のため、医師は鍼灸術を行ったり、韓方薬を処方することができず、韓医師も西洋医学の医薬を処方することができない。韓国において鍼灸術を独占的に行うことができる資格である。 

韓医学部の設置校でソウルにあるのは少なく、地方大に多いです。またソウルでも上位のSKY3校は設置していません。日本の場合、明治初期に漢方医学は医学から除外され、医学部は西洋医学一辺倒になりました。現在の日本では漢方薬も医師の処方となりましたが、鍼灸に関しては独立の資格です。日本の方が医師の関連職種に対しての優位性が高いと感じます。


 日本でも医学部進学が難しい場合ひとまず医学部以外の理系学部に合格して学籍を確保し、翌年再度の受験で医学部を狙う仮面浪人はかなり多いと思います。日本で医学部受験の仮面浪人生が特に多いのは、薬学部と歯学部です。

医学部への偏りにはいくつかの共通点が見られる。誰もがそうというわけではないが、ひとまず適性は聞かれも問われもしない。別の専攻に関心があったとしても、成績が少し良くなったと思われたら医学部を勧められる。塾での成績が上位圏であれば、医学部志望でなくても「医学部クラス」に編入される、という具合だ。医学部準備の開始年齢は次第に下がり、医学部入試に挑戦する年齢は上がっている。「小学生医学部クラス募集」の横断幕はもはや見慣れない風景ではない。医大に入るために5浪、6浪も辞さない「修能浪人」が生まれており、理工系学科は学生の中退で苦労している。この3年間で全国の国立大学医学部に定時選考で入学した1121人のうち、浪人生は911人(81.3%)を占めた。競争の激化で現役生が入ることが難しくなっているのだ。


 医学部への偏りは、入試に数年余計に投資しても一生の高所得が保障される医師免許で補償されるという信念から生じている。経済協力開発機構(OECD)の報告書によれば、韓国の開業医の平均所得(2021年、専門医)は一般労働者の6.8倍にのぼる。その格差は加盟国中で最大だ。通貨危機以降、雇用の安定性が大きく低下した韓国社会において、医師は「安定した職業」の最高峰となったが、時間の経過とともに人材を吸い込むブラックホールとなってしまったのだ。医師団体の反発で医学部の定員が18年間にわたって固定されていることで、医師免許による地代追求効果ははるかに膨らんでいる。司法試験が廃止されて弁護士数が増えてからというもの、医師と弁護士との所得格差が次第に広がっているのもそれを傍証する。

韓国の医師の収入は他職種とくらべて群を抜いて高く、この点もまったく日本の事情とそっくりです。

韓国の医師の年俸は労働者の平均賃金の6.8倍で、経済協力開発機構(OECD)加盟国中、その格差が最大だった。


 OECDが最近公開した報告書「一目で見る保健医療2023」を12日に確認したところ、韓国の開業専門医の年俸は労働者平均の6.8倍にのぼった。医院や病院に所属して月給を受け取っている勤務専門医の年俸は全体の平均の4.4倍だった。この格差は、比較可能な資料があるOECD加盟33カ国中、最大だ。

しかし、同じく韓国系新聞の聯合ニュースは今後の医学部の大幅定員増の計画に触れています。

韓国政府が医師不足の解消に向け

大学医学部の定員の増員に取り組んでいるなか、大学側は

来年実施する2025学年度入試で医学部の定員を現在の2

倍近くに増やしたいと希望していることが分かった。保健

福祉部が21日、全国の40の大学医学部を対象に先月末か

ら今月にかけて実施した増員需要調査の結果を発表した。

 政府は、調査対象の大学に25~30学年度の6年間に希

望する医学部増員数の最小値と最大値を提出させた。最小

値は現在保有する教員や設備で増員が可能な規模を、最大

値は大学がこれらを増やすことを前提に提示する増員希望数を指す。

 調査の結果、現在の高校2年生が受験する25学年度入試での大学側の増員希望幅は最小

2151人、最大2847人だった。現在の定員(3058人)に比べ70.3~93.1%の増加を

希望していることになる。

 今年の定員に対する増員希望幅は26学年度が2288~3057人、27学年度が2449~

3419人、28学年度が2649~3696人、29学年度が2719~3882人、30学年度が2738

~3953人だった。

 大学の増員需要は政府や専門家の予想より大きい。政府は25学年度から医学部の定員

を1000人程度増やすことを検討してきたとされる。

今韓国の総人口は5000万人ちょっとで、日本の半分未満です。日本の医師国試合格者数は9000人ちょっとですから、今の韓国の医学部総定員の3000人強は比率として少ないです。おそらく日本の医学部より入試難易度が高いでしょう。しかしそれが倍の6000人になってしまうと、少し多すぎるように感じます。しかし、以下のような事情もあるようです(キムチパワーから引用)。

ソウル大学に入学して自ら辞めた学生数が昨年330人に達したことが9月20日、把握された。ソウル大学が関連統計を集計した1998年以後23年ぶりの最高値だ。


退学学生の大多数は理工系の学生で、(彼らは)医学部、薬学部などに進学し離脱を煽ったものと分析される。COVID-19によって非対面授業をしながらキャンパス生活を享受できなかった学生たちが「半浪人(どこかの大学に一応合格しておいて途中で休学届を出して浪人生活をして別のもっといい大学に行くこと)」を多く選んだのも自主退学が増えた背景として挙げられる。

大学として最難関のはずのソウル大学校でそんなに退学者が出てしまうとは、大学当局も頭が痛いでしょう。

キム・ウォンジュン江南(カンナム)大成(デソン)学院の学歴開発研究室長は「ソウル大学が最もいい大学とされるが、実際にソウル大学の学生でありながらで浪人や半浪人をしている生徒と面談してみると学校より学科にもっと焦点を置いて挑戦しようとするケースが多い」と語った。

ソウル大学看護学科に在学中のチョ・ヘミ(24・仮名)さんも「看護大学の場合、医学や薬学系と学ぶ内容が似ており、もう少し勉強すれば医学部に進学できるかもしれないと考えている友達がかなり多い」、「専門職を好む社会的空気ができており、毎年半浪人をした後、地方医学部に進学する学生が少しずついる」と話した。

日本の場合、医学部の総定員を増やす傾向は微々たるものです。日本の経済の先行きが見通せない状況では、医学部志望者の数は少子化の影響はあるにせよ、他学部と比して多い傾向は韓国以上に続くでしょう。