gillespoire

日常考えたことを書きます

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

「孤独のメス」〜よくできている医療ドラマ


つい最近まで「孤独のメス」で検索しても「孤高のメス」の項目がズラリと並んできました。「孤高のメス」は

大学病院に依存し、外科手術ひとつまともに出来ない地方病院・さざなみ市民病院。1989年、そこへピッツバーグ大学で高度な外科医術を身につけた当麻鉄彦が第二外科医長として赴任する。患者のことを第一に考えて正確かつ鮮やかに処置を行う当麻の姿勢は周囲の反発を招く一方、腐敗した病院に風穴を開けていく。

公開日: 2010年6月5日 (日本)

監督: 成島 出

原作者: 高山路爛

ノミネート: 日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞、 さらに表示

音楽: 安川 午朗

と出て来ます。ふーん、全然しらんわぁ!あ、しかし堤真一が主演した映画なのか。おもしろいかもね。しかし「孤独のメス」は以下です。

東京の下町にある救急指定病院を舞台に、秘められた過去を持つ青年外科部長・岩下健(加藤剛)のストーリーを縦糸に、病院を訪れ、やがて去っていく人々の哀愁を横軸にして、医師と患者の心あたたまる交流、患者の生と死をめぐる葛藤、病院内部に渦まく権力争いなどを織りまぜながら描いたヒューマンドラマ。

そう、これはテレビドラマでしかも昭和中期時代の白黒!出演した俳優は、加藤剛以外に十朱幸代、笠智衆、山本麟一、天本英世、古谷一行、なべおさみ、松尾嘉代、田中邦衛など有名な俳優陣がズラリ(物故者多し!)。


 放映は1969年ですが、リアルタイムでは見ておりません。今調べたら「TBS系の(毎週月曜22:00 - 22:56)の枠で放映されたテレビドラマ」だそうで、小学生の子供が起きていられる時間帯ではございませんね。私が初めて見たのは16,7年前くらいかな、有線の「チャンネルNECO」での再放送です。もうおぼろげな記憶しかないですが、加藤剛演じる外科医の岩下先生がやたらカッコイイこと(十朱幸代演じる看護師は密かに恋心を抱いている)。そして岩下医師には隠し子みたいな男の子がいる謎めいた設定でした。最後になると突然「福岡の大学病院に行く」と岩下医師は言ってそれまでの下町の病院を辞め、夜行の急行に乗って赴任するところで終わったことは憶えています。


 なんとも言えないムードがあるドラマでもう一度見たいものだと思いましたが、その後なかなか再放送がなかったです。仕方ないので、ネットを色々調べてましたが、こんなことが書かれていました。

社会悪に立ち向かわざるを得ない良心的医師の苦悩を描く。「救急指定病院を舞台に、秘められた過去を持つ青年外科部長と患者との心温まる交流、病院内に渦まく権力争い、患者の生と死をめぐる葛藤などを綴ったヒューマン・ドラマ。【チャンネルNECO広報資料より引用】」「七人の刑事」の後番組として制作されたフィルム映像によるドラマ。視聴率的に低迷し打ち切りになったといわれる。


 いや、それは断じてないだろ!と思いました。今まで見た医師が主人公となるドラマでも随一におもしろかった記憶があります。しかし、そういう経緯だったので、岩下先生は急に福岡(九大医学部?)に逃亡してしてしまったのネ。その後もずっと探してきましたが、2021年このドラマがDVD化されていたことをごく最近知りました。「これは絶対見たい!」と思い、購入しました。


 見た感想ですが、「買い」だと改めて思いました。初回は「ガイニン」の話。「ガイニン」と聞いてすぐわかるのは医療関係者だけでしょう。「子宮外妊娠」の隠語というか通称です。発症したらただちに手術しないと、出血過多によるショックなどで命に関わることが多いです。ドラマではよその病院で「盲腸」と診断された女子高生の手術を、岩下先生の病院が頼まれたところから始まります。てっきり虫垂炎と思い込んだ医師達がろくさま診察もしないで手術に臨み、そこで初めて虫垂炎でないことを知り蒼ざめます。そこで外科部長の岩下先生が急遽呼ばれて執刀し、無事事なきを得ます。しかし問題はその後。まず女子高生が通学する高校に通知したら、即退学を命じられるはずです。しかし診断書を書かないと高校の病欠扱いにならない。今の時代だと高校生の妊娠なんて珍しくないでしょうから、時代を感じます。さらに女子高生の父親がこの病院に融資を検討する銀行の支店長だったこともあり、病院の医師達の間で権謀術数がやり取りされます。つまり、腕が立つアメリカ帰りの岩下先生は他の医師達の嫉妬をかっていて、岩下下ろしの格好の材料として利用される訳です。今でも大きな病院や大学病院ならしょっちゅう起きているスキャンダルでしょう。


 全体として医学だけでなく、大学医学部や関連病院の実情に精通する医師が脚本に協力していることは間違いありません。これと比べたら最近の荒唐無稽な手術を演じる医療ドラマなど(「私、失敗しないので」の大門未知子とか)、鼻クソみたいなものです。しかし、医療者だからこそわかるこのドラマのリアリティは、逆に一般視聴者にはわかりにくかったかもしれませんね。清楚な女子高生がまさかの妊娠。しかもそれを親にすら隠して頑強に否定してみせる。そして深夜、足を偲ばせてこの入院している女子高生の元を尋ねてくる「カレシ」。絵に描いたような軽いお銚子者を演じており、まあ娘の父親だったら激怒のあまりぶん殴ってメタメタにしてしまうでしょう!中高年以上の医者だったら一度や二度は経験してそうな修羅場の話でした。昭和時代でない皆さんでも、もし医療に興味があるなら視聴をお勧めします。


孤独のメス コレクターズDVD 【昭和の名作ライブラリー 第96集】
加藤 剛 (出演), 十朱幸代 (出演), 家城巳代治 (監督) 形式: DVD アスペクト社


追伸
もしこの岩下先生みたいな医師が実在するとすれば、まず東大附属病院の医者でしょう。セツルメント運動に通じる社会貢献の意識の高さ。東京の下町の病院で「こんなに腕が立つのに、なんでこんなオンボロ病院に勤めているのか?」と訝しがられる点などに、そう感じます。残念ながら慶應出身の医者には、こういう役回りは似合いません。