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カキ=ノロウイルスの“大誤解”背景に「マスコミ報道」の影響も? 〜そうですかね?

弁護士JP編集部の記事で、そこから引用します。

「ノロウイルスと言えばカキ」


そんなイメージを抱いている人も少なくないかもしれないが、実はこれ、“風評被害”的な側面が大きいことをご存じだろうか。


ノロウイルスは長年、年間の食中毒患者数でもっとも多い病因物質となっているが(2022年は6856人中2175人)、厚労省の担当者によれば「原因食品が『カキ』とされる事例は年間を通じてあるかないかという程度」とのこと。「カキよりもよほど多いのが、食品を取り扱う人がノロウイルスに感染しており、そこから食品が汚染され広がるというケースです」と、“誤ったイメージ”の拡散によって正しい感染対策が徹底されない現状に苦慮する様子をにじませた。

ノロウイルスの起源はどこなのか正確には知りませんが、腸炎ビブリオやコレラのように水環境に棲息する病原体と異なり、ポリオウイルスと同じような糞便感染型の病原体であることは事実です。何らかの理由で海中を漂うノロウイルスの粒子が、カキの採餌活動で体内に取り込まれます。ノロウイルスはカキの体内(中腸腺)で生き続けますが(正確に言うと「感染力を失わない」という意味)、増殖はしません。ノロウイルスが付着するカキを生食してヒト体内に入ると、腸管で増殖して嘔吐や下痢などの中毒症状を起こします。

マスコミが“間違ったイメージ”を広めた?


そもそもなぜ「ノロウイルスと言えばカキ」のイメージが定着してしまったのだろうか。前出の厚労省担当者は「マスコミ報道の影響が大きい」と吐露する。


大きなきっかけとなったのは、2006年冬のノロウイルス食中毒大流行。その際にマスコミ報道が加熱し、食中毒の要因とされたカキの販売不振によって全国の養殖業者が大打撃を受けた。


ところが厚労省が同年実施した緊急調査では、ノロウイルス食中毒として確定した事件のうち「原因食品がカキと特定された事例はなく、食品の取扱い時の汚染が疑われる事例が大半を占めている」と報告されており、「今回のとりまとめ結果では、特定の食品や営業施設がノロウイルス食中毒の原因ではなかったことを踏まえ、報道等に当たっては、くれぐれもご配慮願います」との注意喚起がなされている。

いや、びっくり。ここでこの発言をした「厚労省の担当者」って誰か知りませんが、それこそ「間違ったイメージ」を発信しています。どこかの養殖業者か農水省の回し者ですか?


 上記される2006年の厚労省がおこなった緊急調査は、ネットでは見つかりませんでした。しかし、2010年に大阪市立環境科学研究所の入谷展弘氏が発表した論文には、こう記載されています(生活衛生(Seikatsu Eisei)Vol. 54 No. 4 298 − 303(2010)。

Ⅳ . ノロウイルスの感染経路

ノロウイルス食中毒の原因食材の中で 2001 年頃まではカキを含む二枚貝が最も多く報告されてきたが、その後は全国的に減少し、最近では調理従事者などからの食品汚染による食中毒が多発している[32]。特にカキについては生産者の安全対策(清浄場所・海域における養殖、出荷前の浄化処理、自主検査とウイルス陽性カキの出荷自粛など)や、生カキの喫食とノロウイルス食中毒の関連について 消費者に認知されたことなどが、カキ関連ノロウイルス食中毒の減少に影響していると推察されている[32]。しかしながら、我々が2000 ~ 2010 年に実施した生食用カキのノロウイルス汚染実態調査[33, 34]から、国産生食用カキのウイルス汚染は依然として一定の割合で認められており(表2)、これまでと同様にノロウイルス食中毒の感染源として注意する必要がある。

弁護士JP編集部の記事で、「厚労省の担当者」は続けてこう言っています。

なおノロウイルス食中毒が冬に流行するのは、カキの旬が重なっているからではなく、低温・乾燥した環境に強いというノロウイルスの特性が影響しているという。

これもおかしいでしょう?カキの旬とノロウイルス食中毒の時期が重なっているのは、カキの旬である冬期にカキを生食する機会が増加するからで、寒く乾燥してノロウイルスの感染持続性が増すことだけが原因ではありません。海産物でノロウイルス汚染を起こしやすいのは海中プランクトンを摂取する二枚貝が中心で、そういった二枚貝で生食する機会があるのはほとんどカキとホタテガイだけです。ホタテガイがノロウイルスに汚染されているかどうか調査したのは見たことがありませんが、刺身で食べるのは貝柱だけですから汚染部位は入りません。その点生食で中腸腺も含めてまるごと食べるカキはリスク因子をして大きく、非常に誤解を与える書き方です。

厚労省はカキとノロウイルス食中毒を直接的に結び付けて考えてはいないものの、カキによって発生する可能性そのものを否定しているわけではない。たとえば、先日ノロウイルス食中毒が発生し話題となった「牡蠣フェス」(東京・上野公園)のように、「本来加熱すべきものをきちんと加熱しなかった」ケースだ。

だったら、最初からそう言いなさい!マスコミ報道は「大誤解」でも何でもない。ただ、ノロウイルス感染の主な機会が、「ヒト・ヒト感染」となっているのは事実です。感染した人がトイレに行った後によく手洗いをせず、手にウイルスが付着したまま調理することで感染が拡がります。そうした調理物を食べなくても、共用トイレを使用することで感染する事例もあります。また感染したヒトが吐いたゲロの中のウイルスも冬期はしつこく感染力が残るため、吐瀉物が乾燥して舞い上がった結果、「空気感染」する例もあります。



 随分前ですが、都心のホテルで婚礼パーティに出席した人がノロウイルスに感染しており、途中気分が悪くなってトイレに行った帰りに廊下で吐いてしまった事例があります。当時は次亜塩素酸消毒が知られていなくて、簡単な清掃で済ませてしまったため、年末で寒く乾燥する中、そのままウイルス粒子が残ってしまいました。そのため吐いた当日だけでなく、翌日もその場所を通ったひとがノロウイルスに感染して、大量の感染者が出た事件がありました。ノロウイルスが空気感染を起こす恐ろしさをまざまざを教えてくれました。


空気感染
空気感染は飛沫核感染とも言う。飛沫核とは、飛沫の水分が蒸発した小さな粒子のことで、これを吸いこむことで感染するのが飛沫核感染=空気感染(気体で感染するわけではない)。飛沫は水分を含んでいるためそれなりの重さがあり、体内から放出された後、すぐに地面に落ちるが、飛沫核は水分が無いぶん軽いため、長い時間たっても空気中に浮遊し、しかも遠くまで飛んでいくので拡散性が強い。ただし、多くの病原体は乾燥すると失活して感染力を失う。空気感染が知られるのは、麻疹ウイルス、水痘ウイルス、結核菌とノロウイルスの4つ。


近年の新型コロナ流行で、マスクとともに手洗い励行が拡がったため、新型コロナ以外の感染症も劇的に減少したことは、よく知られています。典型的なのがインフルエンザです。ですから、弁護士JP編集部の記事最後の

いたずらにカキを恐れるよりも、世の中全体で正しい感染対策を心がけ、海の恵みを楽しむほうが得策なのは明らかだろう。

はその通りなのですが、そこまでの書き方が大変に悪いです。


ノロウイルスがなぜ海中を漂うのか?それはノロウイルスに感染した人が排泄したウンコが下水を通じて河川に入り、それが海に入るからです。下水処理場では次亜塩素酸による消毒なんてしませんから、ノロウイルスはほぼ無傷で海中に移行します。ですから、カキのノロウイルス汚染は、大きな河川の河口や周辺の海域が特に多くなります。しかし、バキュームカーで回収した汚穢をそのまま海に投棄する習慣があれば、どこの海域で起こりえます。


 2012年のAFPは韓国のノロウイルス汚染についてこんな記事を出しています。

韓国沖に「浮かぶトイレ」登場、貝類のノロウイルス汚染防止のため


【9月14日 AFP】韓国・慶尚南道(South Gyeongsang Province)当局は12日、同国産の貝類がノロウイルスに汚染されている可能性が米当局などから指摘されたことを受け、11億ウォン(約7600万円)を投じて「海上トイレ」の設置などの対策を進めることを明らかにした。


 米食品医薬品局(US Food and Drug Administration、FDA)は今年6月、投棄された人の排せつ物によりノロウイルスに汚染されている恐れがあるとして、冷凍・生・缶詰めにかかわらずカキなどの韓国産貝類の販売停止をレストランや食品販売店に勧告していた。ノロウイルスは感染すると吐き気や嘔吐(おうと)、腹痛を引き起こす。韓国産カキについては、台湾とカナダも輸入禁止措置を取っている。


 こうした事態を受け、慶尚南道当局は南部の湾岸都市、統営(Tongyeong)市沖の海上11か所に「海上公衆トイレ」を設置することを決め、11日に最初の1基が設置された。最先端の浄化システムを装備するこの公衆トイレは1基6000万ウォン(約410万円)で、海上に浮かべられた台船の上に置かれ、養殖業に携わる小型漁船の乗組員などが利用する。


 慶尚南道は、南部沿岸にある魚介類の養殖場全103か所へのトイレの設置も進めている。FDAは来月、同地域に調査団を派遣する予定。


カキは美味しいですが、その衛生管理には細心の注意が必要です。今年の冬も残り僅かとなりましたが、カキはこれから大きく太ったものが出回るシーズンとなります。美味しく安全に食べられるよう、気をつけてまいりたいです。