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中山太郎代議士の奥さん 〜奇異性脳塞栓症

6月の日経「私の履歴書」は第一三共の社長だった中山譲治さんでした。中山譲治さんが中山太郎議員の息子であることは今回初めて知りましたが、話題は中山太郎代議士の妻、中山花子さんが倒れた時のことです。履歴書の6回目と15回目にその状況が出ています。


 医者だとここを読んだ時、「おや?」と思うはずです。下肢深部静脈血栓による肺塞栓はよく知られており、通称「エコノミークラス症候群」と呼ばれています。血液は血管内であっても停留すると凝固反応が起こりやすい性質があり、下肢を長期間動かさずにいると、静脈内で血栓ができやすくなります。血栓がそこに留まっていれば多少痛みを感じる程度ですが、運動を再開すると血栓がはがれて移動を始めます。その結果として、右心系を通じて肺動脈内で塞栓症を起こすのが、エコノミークラス症候群です。別に飛行機の狭い座席でなくても起こることで、直近で記憶に新しいのは2016年の熊本地震です。この地震後、避難した住民が公民館などでの雑魚寝を好まず、マイカーで寝泊まりしていて多発しました。座席で仮眠し朝起きて車から出て歩き出したところで、急に苦しみだす状況でした。急性呼吸不全から死亡する人も複数報道されており、結構怖いなと思ったひとも多かったのでないでしょうか。


 中山花子さんは旧姓中辻で大阪の旧家の出身ですが、中山太郎との結婚を最初渋ったようです。つまり「太郎と花子」で、漫才夫婦みたいになるのはイヤということだったようです。上記の話は夫の中山太郎が忙しい国会議員の公務を退いてからの老後のことです。さてどこが「おや?」かというと、下肢静脈血栓が飛んで肺塞栓はいいのですが脳梗塞が問題です。通常右心系を流れてきた塞栓は肺動脈を詰まらせることがあっても、左心系には入りません。ですから左心系の体循環の一環である脳動脈に血栓は行かないはずなのです。


 それでも脳梗塞を起こしたということは、何らかのルートで右心系から左心系に入る抜け道があったということです。「普通に考えるとこの右左シャントは、心房の卵円孔開存かな」と思って調べると、奇異性脳塞栓症ということでこの病態が記載されています。卵円孔は心房中隔に開く孔です。胎児の時はこの卵円孔で胎盤でガス交換した動脈血を右心房から左心房に流し込みます。しかし、出生後肺呼吸が始まると左心房の圧が高まり、卵円孔はフラップのようにかぶさっていた弁で閉じられます。下は岡山大医学部循環器内科のサイトからの引用です。

多くの場合この弁が周囲の隔壁と癒着して完全に閉鎖になりますが、一部のひとではその後もしっかり閉まらず状況次第では右心房と左心房が通じてしまうことが起こります。これが「卵円孔開存症」です。


 奇異性脳塞栓症を見ると、この右左シャントは卵円孔開存以外にも、ASD(心房中隔欠損症)、VSD(心室中隔欠損症)、肺動静脈瘻などが原因として挙げられていますが、中山花子さんがそれまで心雑音などを指摘されていなければ、卵円孔開存がもっとも考えやすいでしょう。私は通常出生後に卵円孔は癒着により完全閉鎖するものだと思っていましたが、健常人でも20%くらいは癒着しないのだと今回知りました。しかし、熊本地震の時も深部静脈血栓症で脳梗塞になったという報道は聞きませんでした。卵円孔が開存していても、右心房圧が左心房圧より高くならないと右左シャントは起こりません。一時的にせよそうなるのは稀なのでしょう。