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甲南医療センター過労自殺 〜病院は調査委報告を公表すべき

研修医の自殺を巡って、裁判になりそうです。読売テレビの報道です。

神戸市内の病院に勤務していた若手医師が自殺したのは「長時間にわたる時間外労働」が原因として労災認定されていたことがわかりました。遺族らは病院側に損害賠償を求める裁判を起こす方針です。


 神戸市東灘区の甲南医療センターに勤めていた高島晨伍(しんご)さんは昨年4月からは、研修を受けながら消化器内科の診療にあたる「専攻医」として勤務していましたが、昨年5月に神戸市内の自宅で自殺しました。


 高島さんの母・淳子さん「5月になると『楽しいことが一つもない』『しんどい。誰も助けてくれない』と言い、右往左往しながらも、最後の日も定時まできちんと勤め上げ、その夕方に命を絶ちました」


 高島さんは学会発表の準備なども重なり、亡くなる直前の約3か月間、休日はなく、1か月間で200時間を超える時間外労働をしていたということです。


 高島さんが残した遺書には―。「いやな思いをさせてごめん。もっといい選択肢はあると思うけど、選べなかった」

読売新聞の報道では以下のような状況だったようです。

母親の淳子さん(60)によると、高島さんは父親が消化器内科の医師で、中学生の頃から医師を目指していた。複数の同僚によると、2020年4月にセンターの研修医となった後、内視鏡操作の練習などに熱心に取り組んでいたという。


 しかし、専攻医になる直前の22年2月頃から、救急対応などで深夜に及ぶ残業が続くようになった。高島さんはこの頃、大阪で暮らす淳子さんに「朝5時半に起きてタクシーで出勤し、午後11時に帰宅している」「土日も行かないと業務が回らない」と話していた。


 淳子さんは心配して高島さんの神戸市の自宅を訪ねたが、4月以降は部屋はごみが散乱し、口数も減った。診療の忙しさに学会で発表する資料作成も重なり、5月に入ると「しんどい、しんどい、疲れた。2月から休みなしや」と漏らすようになったという。

そして労基署と病院側の反応は以下です。

高島さんが亡くなるまでの3カ月間は100日連続で休日がなく、最後の1カ月の時間外労働は200時間を超えていたことなどが分かり、労災として認定されました。


病院側は遺族に、未払いの残業代130万円を支払いましたが、過重労働をさせていた認識はないとし、「労働時間の中には自己研さんの時間もあり、正確な勤務時間は判断できない」などと説明していました。

高島医師が、過労によって適応障害を起こしうつ状態になっていたのは、間違いないと思います。それが自殺という最悪の結果になった最大の原因は、「学会報告」でないでしょうか。学会報告といっても基礎医学と臨床医学ではまったく異なり、臨床医学ではいわゆる「症例報告」が非常に多いです。症例報告は比較的短くかつ形式も決まった様式に則ればいいのですが、それでも初心者にはなかなか大変です。高島医師が課されたのはおそらくこの「症例報告」だと想像しますが、2年間の初期研修を終えたばかりの専攻医となれば上級の指導医からの支援が必要でしょう。


また神戸新聞の報道には、兄が以下のように語っています。

高島さんの兄(31)は、高島さんが生前、淳子さんに「『コロナで病院の収益が減った。常識的な残業申請をするように。若い頃から経験より金を取るのは駄目だ』と(センターで)言われた」と話していたと明かした。

 高島医師は神戸大学医学部を卒業し、甲南医療センターで研修医を始めています。調べると甲南医療センターは神大医学部の関連病院であることがわかります。主な医師は神大出身者で固められており、関連病院が少ない神大医学部にとって貴重な医局出向先だろうと思います。病院で上から下まで同窓となると、若手の医師は先輩の顔色をうかがい、なかなか発言しづらいと思います。しかも新型コロナで病院経営が危機的とまで言われたら、沈黙しかないでしょう。


 その状況で、院長の会見は以下です。

病院は、遺族側に未払いの残業代として130万円余りを支払いましたが、算出された時間外労働には「自己研さん」の時間も含まれていたなどとして、長時間労働の指示を否定しました。

 甲南医療センター・具英成院長「特に時間外労働については、生理的な欲求に応じて寝て過ごすということも多々ございます。勤務時間を正確にはなかなか把握できない」

これはちょっと酷いのでないでしょうか?「学会報告」は業務でないといっても、専門医資格取得には必須で、専攻医なら義務といっていいでしょう。「自分で勝手にやってただけ」と捉えられかねない具英成(ぐえいせい)院長の発言は、ひとを愚弄しています

遺族やセンターによると、センターは遺族の要望を受け、昨年8月、原因解明のため、外部の医師や弁護士らでつくる第三者委を設置。同委は職員や遺族らに聞き取り調査を実施し、今年1月に報告書をまとめた。センターは同月、遺族側に、第三者に公表しないことを条件に報告書を開示すると伝えた。遺族は公表を求めたが、センターは「職員のプライバシーが含まれる」などと拒否し、開示しなかったという

関係者によると、センターは職員には説明会を実施していた。そこで▽高島さんは初めて主治医として患者を担当し、心理的負担があった。自殺と無関係と言えない▽学会で発表する資料の作成期限を守ることが難しいと嘆いていた▽いじめやハラスメントはなかった▽センターの労働時間や健康管理の体制が不十分で、問題に気付けなかった――と明らかにしていたという。

 センターは、労基署が認定した時間外労働には、労働時間にはあたらない自主的な「自己研さん」の時間が含まれていると主張している。しかし、第三者委が認定した時間外労働は労基署とほぼ同じだった。

センターは取材に「報告書の認定は当院の認識と異なっていた。医師の自殺は公益に関わることではなく、公表すべきではないと判断した。ご遺族との間で第三者に公表をしない約束が得られず、開示にいたらなかった」と説明している。

 日本弁護士連合会の指針では、第三者委の調査結果について「原則、遅滞なく利害関係者に開示すること」と定めている。

 第三者委の委員の一人は読売新聞の取材に「公明正大に調査した。報告書を遺族に開示していないのは理解できない。公表した上で、再発防止に向けて議論すべきだ」と話した。

甲南医療センターは高島医師の自殺に鑑み、遺族に誠実に対応し、調査委報告を公開すべきです。もしそれができなければ、この病院を基幹関連病院とする神戸大学医学部の体質も問われかねません


 しかし、自殺の直接の引き金が学会報告だったとすれば、とても残念です。臨床系の学会では、「演題取り消し」は少なくありません。プログラムや抄録を見て興味深い症例だったりするとちょっと残念に思いますが、「また発表する機会もあるだろう」と考え聞く方もあまり気にしません。高島医師も指導医から「間に合わなさそうなら、また次の機会にしようか。」と言ってくれていたら、ここまで深刻なことにならなかったのでは?と思います。