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グランド・グルメ ヨーロッパ食材紀行  〜冬の海の味覚 ムール貝


crevettes grises 〜北海で獲れる「灰色の小エビ」


「グランド・グルメ ヨーロッパ食材紀行」はNHKがかなり前に作成したドキュメンタリーで、確か1990年代でないでしょうか。放映場面からみて、少なくともユーロが流通する前につくられていますが、ヨーロッパ各地の食材探訪紀行です。


 さて今回も録画したのを再生して見ましたが、ちょうど気温が下がってタイムリーな内容でした。ムールは日本ではムラサキイガイという名称ですが、日本で流通するのはあまり見たことがないです。時々冷凍品が出ていますが、生のムールはまず見ませんね。とここまで書いて、魚介類の鑑別でよく利用する「ボウズコンニャク」の「市場魚貝類図鑑」サイトを参照して、混乱することが書かれているのに気づきました。ヨーロッパにはこのムール貝の仲間に関して「ムラサキイガイ」と「ヨーロッパイガイ」の2種類がいると書いてあり、以下の記載があります。

ヨーロッパのイガイには地中海のチレニアイガイ(ムラサキイガイ)と、フランス東岸とイギリス、北欧のヨーロッパイガイがある。ムラサキイガイよりも小振りである。

これ、逆でないでしょうか。もしボウズコンニャクが言う産地と種類が間違ってないとすると、少なくとも水産物として流通する地中海産のチレニアイガイは、北ヨーロッパ産のヨーロッパイガイよりかなり小ぶりです。チレニア海とは地中海のイタリア西岸の海域のことですから、名称は間違ってないでしょう。しかし、このボウズコンニャクの記載を読んで、長年の疑問が氷解しました。パリなどフランスで食べるムール貝は地中海産なのですが(それは確か)、ベルギーで食べるムール貝と比べて明らかに小ぶりなのです。パリに着いてしばらくした頃、カルチェ・ラタンのビストロでムール貝を食べる機会がありました。日本のアサリよりは少し大きいくらいで美味しいものの、身が小さく痩せていてちょっと物足らなかったです。「ふーん、あまり大したことないな」と思っていました。ところがその後しばらくしてベルギーを旅行する機会があり、その時に食べたムール貝が大きいことにびっくりしました。しかもぷっくりしてカキみたい。フランスに住んでいた間、「なぜ大きさが違うのか?」とずっと疑問に感じていましたが、元々種類が違う貝なのですね。私はてっきり餌や水温の問題で南方のムール貝は小ぶりなのだとばかり思っていました。しかしwikiの英語版ムール貝(Blue mussel)を読むと、互いにごく近縁です。


 さて「グランド・グルメ ヨーロッパ食材紀行」で紹介されたのはオランダのゼーランド州のムール貝です。しかし番組後半で言っておりましたが、実はベルギーで食べるムール貝はオランダ・ぜーランド州から輸入したものでした。全然知らなかった!ぜーランドは現地で「ゼーラント」と発音するようですが、Zeelandすなわち「海の国」で、北海に面するオランダ南部でベルギーと隣接する州です。番組で大量に船積みされるムール貝ですが、あれ何処で採っているのかな?というのはムール貝は足糸と呼ばれる白い糸状のひげみたいなもので岩場や杭にへばりついているからです。番組では何処かで既にむしり取ったムール貝を砂利のように船で運搬していました。古い画像ですが、こんな感じ。


 そのまま出荷するのかと思ったらそうでなく、一部を採取して金属缶に入れそれをサンプルとして検査場に出しています。そこで分析した結果を競り買い市場に報告し、仲買人はそれを見て入札する段取りでした。サンプルとして出す金属缶は厳重に封をされてすり替えができないようにされているのが印象的でした。サンプル分析は貝を蒸して身を取り出しておこなってましたが、タンパク質や脂質などを測定するのでしょうか。仲買人が検査データを見るモニターがブラウン管製で、何とも時代を感じさせる場面でした。さて競り落とされたムール貝ですが、積み船はまた出航し、ムール貝を網に入れて海に再度投入して泥吐きなどをさせて出荷できるまで待つのです。その後掃除や大きさ選別など経ており、随分手間暇かけて出荷しているのがわかります。


 この後番組はゼーランド州などオランダで、ムール貝を料理する風景に移りますが、クリームやバターでグラタンにしたり、ロブスターと一緒にローストにしたりと、凝った料理でした。まあ、そういうのもきっと美味しいでしょう。しかしムール貝を一番よく味わえるのは、例のバケツみたいま蒸し鍋にムール貝を大量に放り込み、セロリかポワローみたいな香味野菜を刻んで入れてさっと蒸したものでしょう。これにフリット、すなわち大量のポテトフライを添えたら、もう格好のビールの肴になります。私はフランスに居る間しょっちゅうベルギーに出掛けて、このゼーランド州産のムール貝を堪能しました。また食べてみたいな。しかしあの頃はあれだけたっぷり食べてビールも飲んで、2000円くらい。円高もあって凄く安かったですが、今は結構なお値段になりそうです。そうそう、ムールにフォークが添えてあるけど、食べた貝の殻をピンセットみたいに使って身をつまむ方が簡単ですよ。ちょっとお品に欠けますが(笑)