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crevettes grises 〜北海で獲れる「灰色の小エビ」

グランド・グルメ ヨーロッパ食材紀行  〜冬の海の味覚 ムール貝



この前ムール貝の記事を書いて、久しぶりにヨーロッパでの生活を思い出しました。向こうでは色々な魚貝類を試しました。フランスはヨーロッパ諸国では例外的に水産物が豊富でしかも割合鮮度が良いので、随分楽しめました。その一つが今回紹介したいのが「crevettes grises」(クルヴェット・グリーズ)、すなわち「灰色小エビ」です。このエビ茹でてもあまり赤くならないので、こういう名称なのでしょう。ベルギーの日本人ミニコミ誌「青い鳥」オンライン版で「手仕事が美味を生む「北海のグレーの小えび」 Crevettes Grises / Grijze Garnalen 」と題して、非常にくわしい紹介があるので是非ご参照を!


 crevette(クルヴェット)はフランス語のcourbeを連想させるので、「小さい曲がったもの」の意味だろうと思ってましたが、違ってました。今調べたらノルマン語での「小ヤギ」(chevrette、シェヴレット)の転化で、飛び跳ねるイメージだそうです。そうそう、ヤギはヒツジと違ってぴょんぴょん跳ねます。特に子ヤギはね。ノルマン人は10世紀後半ころから船に乗って南下してきた北欧のヴァイキングで、フランスでは北方海岸地域(今のノルマンディ地方)に定住しました。だからこの海産物にも親しみがあったのでしょう。フランスでcrevetteというと、このcrevette grisecrevette rose(クルヴェット・ローズ)がもっともポピュラーです。crevette rose(バラ色小エビ)は日本のエビだと芝エビに味も姿も似ていますが、髭はもう少し短いです。crevette roseはいわゆるエビの姿と味ですが、crevette griseはかなり違います。まず頭が丸くずんぐりして、あまりとげとげしてません。また味が濃いといいますか、独特な旨さです。このcrevette griseは大きくても3 cmくらいで、フランスだと茹でた殻つきのまま売っています。そう固くない殻なのでそのまま食べてしまうことがほとんどですが、ちょっと舌に触ります。富山のシロエビみたいな感じです。


 ところがベルギーではcrevette griseは殻を剥いてあることが多く、特にレストランで供される時は確実に剥いてあります。剥いた方が格段に食べやすいし味もよく感じられます。この点が、上の「青い鳥」の記事で言及されていますが、やはり剥くのは結構手間らしいです。ベルギーのcrevette griseが特に美味しいのは、獲れたてを茹でてすぐその場で殻を剥く手間を惜しまないからだと紹介されています。その鮮度よい剥き立てのcrevette griseを使う名物料理がベルギーにあります。一つが「tomates aux crevettes」(小エビ添えのトマト)、もう一つが「croquettes de crevettes」(エビ入りクリームコロッケ)です。両方とも絶品です。灰色小エビでないと出せない独特な旨みを感じられます。僕が最後にベルギーに行ったのは今から10年以上前の夏ですが、久しぶりだったので絶対tomates aux crevettesを食べようと思っていました。ブリュッセルの昼でしたが、もうワクワクしながら登場を待ってました。ところが!トマトの上に乗るエビがgriseでなく、roseすなわちバラ色小エビだったのです。これじゃあ、普通のエビの味じゃないか!その夕方はパリで知人夫妻と会う約束をしていたので、もう食べるチャンスがない。ものすごい貧乏くじを引いた思いで、情けなくて怒っていたら、向こうでウエイター達が「あのジャポネ、なんかムッとしてるみたいだけど、どうしたのかな?」とかコソコソ言ってるのが聞こえます。まあウエイターに罪はないのですが、あれ以来食べるチャンスがない私は今でも憤懣やる方ないです。とにかくです、皆さんがもしベルギーに行くチャンスがあったら、是非!この2つをお試しを!ちなみに2つとも普通は前菜でのサービスですから、メイン料理は別途お考えください(当然アラカルト注文)。


 ところで、このエビ日本にもいないのでしょうか?上の「青い鳥」の記事ではこのcrevettes grisesの学名も記載してあり、Crangon crangonだそうです。これで検索すると「ヨーロッパエビジャコ」と出て来ます。エビジャコか!今度はエビジャコで引くと、早速出て来ます。全然珍しくないらしい。東京湾でもレア度:★☆☆☆☆だそうです。なんだ!その辺にいるのか!しかし

日本ではエビジャコ類は佃煮にして食べられたり、釣りのエサとして細々と利用されているが、ベルギーとオランダではかなりメジャーな食材らしい

小型の蝦であまり利用するに値しないという意味。

なんて書かれてる!ヒドイ!釣り餌って、これじゃまるで人間の食い物じゃないみたいな扱い。しかし同属とはいえ、違う種類です(Crangon affinis)。味は同じなのだろうか?エビジャコを水産物として扱っているか調べてみると、ボウズコンニャクの「市場魚貝類図鑑」にアムールエビジャコが出ており(Crangon amurensis)、こちらは水産物として流通しているようです。しかし、それでも

北海道を中心に流通している模様で、関東には道東から入荷してくる。

主に唐揚げ用として売られており、利用法などは一般的ではない。

と書かれています。私ねえ、産地と鮮度の問題じゃないかと思います。crevettes grisesもそうですが、割と足が早い感じで買ってすぐ食べた方が美味しいです。きれいな海に育ったものを漁獲後すぐに食べるのが、肝腎でないかと。アムールエビジャコは日本では主に道東に多いようですが、ベルギー近海の北海と似た環境でないでしょうか?きっと美味しいと思います。道東では「スナエビ」という俗称もあるようですが、北海道・広尾漁協でこんなニュースもありました。スープカレーに使ったのか。


そうね、カレーもいいかもしれないけど、もっとシンプルな茹でただけが一番美味しいでしょう。これだと売れない雑魚の廃物利用みたいな印象なんですが?シシャモが捕れない今、もっと積極的に売り出すべき。


 フランスでもcrevettes grisesは茹でた状態で売られるのが普通ですが、一度だけ生、しかも生きているのがマルシェで売られているのを見たことがあります。2月の吐く息も白い寒い時期でした。いつも通り早朝魚屋に行くと、電灯に照らされて麻袋みたいな茶色い布で覆われたトレーが置いてあります。「何ですか、これ?」と尋ねると、魚屋さんが麻布をはずしてくれました。その途端、ピチピチと跳ね飛ぶ小エビがいっぱい!生きているcrevettes grisesは透明で、ガラス細工みたいでした。ちょうどこんな感じ。

まさに「跳ねる子ヤギ」でした。早速買って帰りましたが、さあどうしようか。ぴちぴち跳ねるのを生で食べるのはちょっと可哀想と思い、バターでさっと炒めていただきました。いつものよりずっと美味しかったですが、でも、やっぱり富山のシロエビみたいに刺身にすべきだったと今でも後悔しています


 ベルギーに行く予定は当分ありません。ならば北海道・道東に行き、釣り餌になる前のアムールエビジャコを買い占めて、トマトサラダやコロッケにしたい。道東のひとたちもこれコロッケにして「フランスの味」と言って売り出したら、ものすごく売れると思います。クリームコロッケもいいけど、ジャガイモコロッケでもすごく合いそうな予感。スープカレーだけじゃ本当に!もったいない味ですよ。下のcroquettes de crevettesの画像を、参考にしてくださいね!