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ヒューマニエンス 〜「植物」


NHKの科学番組で「ヒューマニエンス」というのがあります。織田裕二が司会者として立ち、主にヒトや人体に関する最近の科学進歩を扱っています。しかしそちら方面は自分の専門でもあるので、あまり目新しい話題はないです(私にとって)。そのためあまり見ない番組ですが、今回はそのテーマ「植物」に興味を持ちました。


 最初の話題は植物組織内のカルシウムイオン(Caイオン)シグナルです。シロイヌナズナの葉を刃物で切ったりヨトウムシに食わせたりすると、傷ついた部分からCaイオンシグナルが拡がる様子には感動しました。これ何かのCaイオンプローブを使っているわけですが、番組ではそこまで詳細に紹介されません。調べてみると、GFP(緑色蛍光蛋白)とカルモデュリンを融合させた人工産物を発現させているようで、Caイオンがカルモデュリンに結合すると立体構造が変わってGFPの蛍光強度が高まるという仕組みのようです。よく知りませんが、細胞が壊れると細胞外から細胞内にCaイオンが流れ込み、それが切っ掛けとなって細胞にCaイオンの流れ込み(influx)が起こり活動電位が発生するのでしょう。その活動電位の波が葉脈中の師管を伝わると言います。これまたよく知りませんが、師管壁の細胞はお互いにGap junctionみたい構造で連携しており、そのため活動電位の波(伝導)が細胞から細胞へと波及するのでしょう。師管の伝導は動物の神経伝導とそっくりです。昔高校の生物で植物について習った時、「導管は受動的な働きしかないが(水などの受動輸送)、師管には能動的な動きもある」と教わりました。しかし、その能動的作用に神経伝導のような現象もあると知り、驚嘆しました。またCaイオンシグナルの波及も単なる放射状ではなく、葉のへりに沿った葉脈から始まり、ただし減衰は葉の中心部が一番遅いです。おそらく性質が異なる複数種のCaイオンチャネルが植物にもあるのでしょう。同じようにCaイオンチャネルに依存する心筋の特殊心筋系の脱分極と再分極のパターンと似ていて、非常に興味深いです。



 次は果実の大きさの進化。白亜紀後期に出現した被子植物は、我々が知るように種子の周囲の果肉が発達します。しかし白亜紀その果肉は非常に小さく、せいぜい1センチくらいうだったとのこと。それが爆発的に大きくなるのは新生代に入ってからで、これは哺乳類の進化が関係するらしいとのこと。つまり哺乳類ではは虫類より果実を好む種類が進化してきました。それらの哺乳類は果実を好んで食べても果肉から栄養を得るだけで、中の種子は消化されずに排泄されることがあり、その結果種子が糞とともにあちこちに散布されることになります。そのため果実がどんどん大きく進化したのでは?ということです。これは確かに頷ける仮説で、果実の中に発芽抑制物質が含まれていて、動物の消化管でそれが分解されると発芽能が発揮される植物の種類もあります。また哺乳類と同じく鳥類もこの果実の進化と関係したはずと私は考えます。そして果実が成熟=種子が完成を知らせるために色変化も発達したのは、果実食の哺乳類の視覚変化とも関係したと述べています。サル類に関して言えば原始的な夜行性のサルは昆虫などの動物食で、視細胞は多くて2色です。しかし果実食に進化し昼行性となったサルは、3原色に視細胞が進化したということを述べていました。一種の「共進化」という捉え方でしょう。


 最後は穀物などの栽培植物は、一種のヒト依存性に発達した植物という見方を紹介していました。イネは原種で禾が長く種子が散らばりやすい穂の形成だったのに、栽培腫になると禾が短く種子は熟しても穂についたままに変わり、そういう品種が作物として「ヒトに依存して繁栄」しているという考え方です。まあ、そうも言えるかな。しかし、進化とは少し違うでしょう。


 このヒト依存性の繁栄というなら、私は真っ先にラン科植物を挙げたいですね。ラン科植物は西洋でも東洋でも熱狂的な愛好家がいます。ラン科植物はヴァニラみたいなごくわずかな例外を除いて、経済的な価値はゼロに近いです。無論多彩な花色や香気で園芸植物として人気はありますが、そうでない小さな地味なものでもラン科植物は愛好家ではものすごい人気なのです。そういうラン愛好家の手で、世界の珍しいラン科植物は増やされ移動しています。ランこそはヒト依存性に発達した植物でないかと、僕は考えます。下の写真はセロジネ属のランです。


なぜ他の植物とくらべてもランには熱狂的な愛好家が多いのか?はっきりした分析研究を知りませんが、僕個人の仮説としては「ランの花がヒトの顔に似ているからでないか?」です。ヒトの脳には顔面認識に特化したニューロン群で構成される回路があると考えられており、表情などを細かく読み取ることができます。この神経回路がランの花によって刺激されるのでないかと考えています。ラン科は被子植物の中でももっとも新しく進化した植物です。現在もその進化が続いていると思いますが、今後ヒトとの関わりでランがどのような変異を遂げるのか興味深い問題です。