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医学科入学者、女性初めて4割超に 〜朝日新聞記事から

医学部入学者、女性が4割占める 〜女性医師増加するとどうなるか
医学科入学者、女性初めて4割超に 〜朝日新聞記事から
医学科入学者、女性初めて4割超に 〜ヤフコメの反応


もうすでに出ていた文科省の調査ですが、朝日新聞が触れました。


医学部医学科に入学した女性の割合が今年度、初めて4割を超えたことが文部科学省の調査で分かった。四半世紀ほど3割台で推移しており、「4割の壁」と言われていた。2018年に発覚した医学部入試不正問題を機に、不当な差別が是正されたとみられる。女性入学者が半数を超える医学科も出てきた。(山本知佳)


 そうか、4割の壁と言われていたくらいだと受験界ではとっくに医学部入試で恣意的操作があることは知られていたのですね。まず興味を持ったのは、文科省がおこなった調査がどういうものか?でした。「医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る調査について」ということで、以下のサイトが見つかりました。


そしてこの令和5年度つまり2023年春におこなった医学部の入試解析をおこなう一番下のリンクを開いてみました。pdfをエクセルに変換してちょっと調べてみると、報道には出て来ない意外な側面に気づきました。


まず合格者と入学者の中で女子がどれくらいを占めているのかを見てみました。少ないのは、以下です。

合格者・入学者とも女子率が低い大学をみると、難関の旧帝や旧六が多く見られる傾向です千葉大と京大が一番低いです。それら以外では慶應医学部、和歌山医大、奈良医大、近畿大の低さが目立ちます。慶應に関して旧帝特に東大・京大との掛け持ち受験者が多く学力層が重なっているので、そんなものかなと思います。その点、そこまで難関ではない和歌山医大、奈良医大、近畿大の低さは気になります


 今度は女子が多い方をみてみましょう。

一見してすぐわかることは、合格者・入学者とも地方国立医学部と私立医大の女子率が高いことです。国立に関しては以前私が述べた「地方在住の優秀な女子は、東大などの都市部難関大より地元の国立医学部に進む傾向が強いのでないか」という仮説もある程度裏付けていると思います。つまり、親からすると息子よりは将来頼りになる娘はなるべく近くにいてほしい。優秀な娘は嬉しいが、都会に出たらきっと向こうでも引く手あまたでそのままそちらで結婚してしまい、帰って来なくなる。それだったら地元の医学部に進んで医者になってくれたら、開業も含めてずっと地元だし、何と言っても子供が医者なら老後病気になった時も安心できるといった心理です。


 国立大医学部に関しては、偏差値の高低に関わらず合格者≒入学者ですが、私立医大に関しては合格者と入学者の女子率が微妙に変わります。聖マリアンナ、埼玉医大、愛知医大、北里大、帝京大、東海大では女子の入学者が合格者に比して多くなります反対に順天堂大、日本医大は男子の入学者が合格者に比して多くなります。特に日本医大は入学者に関して男子率が相当上がります(上図の入学者で日医はさらに上で出てない)。これはどう考えたらいいのか?一般に私立医大の合格辞退者は、より難しい私立医大か学費が格段に安い国公立大医学部に合格した者です。一つの仮説として、易しめの私立医大を受ける男子受験生は上位の私立医大あるいは国立医学部も掛け持ち受験していて、そちらに合格できたら辞退する者が多い可能性があります。反対に女子はそこまで無理してチャレンジ受験はしないで、医学部だったらどこでもいいと考えるのかもしれません。合格者・入学者とも女子率が高い易しめの私立医大は、高額な授業料の大学が多いです。女子医大は比較できないので措くとして、共学の聖マリアンナ、埼玉医大、愛知医大、北里大、帝京大、東海大の授業料は6年間で3000万円〜5000万円します。こういった私立医大の学費は普通のサラリーマン家庭ではまず無理です。今は地方枠などの奨学金があるからとは言いますが、医学部はクラスメートとの付き合いが結構密なので、同じような社会層でないと学生生活をやりにくく感じるのは否めません。学費さえ何とかなればOKではないのです。保護者が医師あるいは企業で役員をしていて、最低でも年収2000万円くらいはないと大変でしょう。


 日本医大や順天堂大でなぜ女子合格者の辞退率が高いのか?より上位の医学部にも合格したからとすれば、国立なら旧帝や旧六のクラスでしょう。それも考えられなくもないですが、おそらく地方の国立医学部に合格したことで辞退する女子受験生が多いのでないかと推測します。地方から都市部の私立医大に行くのは、学費や生活費で親に相当な負担になります。それに最終的に地元で働くつもりなら、都市部の有名私立医大を卒業するメリットはあまりありません。この見方も、地方在住で優秀な娘を持っている親の意向が大きいという上記仮説を基にしていますが。


 さて今回の文科省の調査では、以前問題になっていた意図的な女子受験生や浪人生の減点による差別受験は減ったということになっています。その根拠として、男子の合格率と女子の合格率で以前のような極端な差がなくなったからということです。しかし、今回の調査でも女子合格率が低い高いはそれなりに差があります。まず、女子合格率が低い大学をみてみましょう。

この中でまず目を引くのが、近畿大学です。近大医学部は合格者・入学者とも女子率が低いですが、女子の受かりにくさが2番目に高いです。これ、本当に意図的な試験操作がないといっていいのでしょうか?もし操作がないなら、近畿大を受ける女子受験生は男子と比べてもともと低い学力層だったからということになります。しかし同じ関西圏にある私立医大の大阪医科薬科大、関西医大、兵庫医大と差がありすぎます。


 今度は女子合格率が高い大学です。


こちらは、地方国立医学部と私立医大で女子が受かりやすい傾向があると言えます。やはり、地方の国立医学部は優秀な地元の女子層の受験がかなり多いのでないかと感じさせます。異色なのは、東大理科三類です。理三でなぜ女子合格率が男子より有意に高くなったのか?はっきり言ってしまいますが、桜蔭生の受験が影響したのでないでしょうか。昨年、桜蔭高校が灘などの男子進学校を押しのけて理科三類合格者数でトップになったことは話題を集めました。桜蔭生でも特に優秀な学力層が集中して理三を受けたせいでないかと思います。ただし桜蔭生がさらに優秀になったというよりは、灘や開成、筑駒といった男子最難関校では、上位層が医学部以外への進学を模索するようになったことも影響した可能性があります。具体的には東大の理科三類以外の科類(特に工学系の理科一類)、あるいは海外大学への進学です。将来的に医師の収入は頭打ちと予測されており、それだったら情報系など飛躍が見込める分野に進もうと考えても不思議はありません。


 私立医大に関しては、現在男女差別入試はほぼなくなった結果と考えていいでしょう(上記の近大については懐疑的ですが)。易しめの私立医大は女子合格率が特に高いです。世論を反映した結果ですが、今これら私立医大の首脳陣はどう考えているでしょうか。同窓会の力の変化は注目点のひとつだと思います。依然として男性優位な日本社会で、このまま女子OBが増加していったとき、以前と同じような母校への寄付などの貢献を期待できるかどうかです。私学経営で特に医学部単科大学の場合、卒業生からの寄付も重要な資金源です。


 色々な意味で大変興味深い文科省の調査に目を通すことができました。