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国際卓越研究大学(2) 〜なぜ東北大学なのか

国立大学法人法改正が成立(1) 〜「日本が死んでいく」の意味
国際卓越研究大学(1) 〜どういう制度設計なのか
国際卓越研究大学(3) 〜心許ないファンドの運用と政府の思惑
国際卓越研究大学(4) 〜国立大学法人法改正という陥穽
「名ばかりテニュアトラック」への言い分 〜「東大話法」か 東北大



さて、ここから選定する過程をみていきます。NHKの6月の配信です

「国際卓越研究大学」認定候補絞り込み 秋ごろ結果公表 文科省

2023年6月30日 15時32分


国が10兆円規模の基金を活用し、世界トップレベルの研究力などが期待される大学を支援する「国際卓越研究大学」について、文部科学省は7月、京都大学、東京大学、それに東北大学の3校に現地視察を行うなどして、今後、認定候補を絞り込み、秋ごろに結果を公表することにしています。


わずか2ヶ月ちょっとで、候補は京大、東北大、東大の3校に絞られました。この時点で大方の予測は、「もし1校なら東大、2校だったら東大と京大」だったでしょう。大学の規模や海外の評価をみてもその順だからです。


ところが蓋を開けてみて、びっくり。ニュースイッチからの引用です。

なんと東北大学1校のみが、初年度の国際卓越研究大学に選ばれました。その理由として

東北大は複数教員のピラミッド型組織「講座制」から離れ、教授、准教授、助教それぞれが研究室主宰者(PI)として「研究ユニット」を率いる独立型に転換する計画を打ち出した。その結果、現在の全学830研究室が1800ユニットになる。これを研究支援や産学連携の専門職スタッフ1100人増によって支えるとする。


同大が掲げた論文や外部資金獲得などの目標値には「高過ぎる」との声も上がった。しかし大野英男総長は「PIの大幅増と研究に集中できる環境の整備で、実現は可能だと計算した」と説明する。

ということです。対して、東大と京大はなぜ落選したのか?プレジデントオンラインの知野惠子氏の記事です。

報告書は東大に対してこう指摘する。

既存組織の変革に向けたスケール感やスピード感については必ずしも十分ではなく、工程の具体化と学内調整の加速・具体化が求められる〉

〈「成長可能な経営メカニズム」の具体化に向けては、長期的・世界的規模のビジョンと戦略を構築する「法人総合戦略会議」の設置(などが求められる=筆者注)〉

京大には〈新たな体制の責任と権限の所在の明確化が必要〉

実社会の変化への対応の必要が感じられた

東大、京大は、経営改革や組織改革などのスピードの遅さや、全学としての取り組みが不足していることが問題視されている。


一方、東北大については、

〈改革の理念が組織に浸透している〉

と、評価した。


文科省やアドバイザリーボードは、ガバナンス(組織統治)の強化、従来の慣習の廃止や見直しなど、徹底的な改革を大学に求めている。その大学像に向かって進む大学と、すぐには進めようとしない大学との差が今回の結果につながったと思われる。

東大と京大については「改革のスピードが遅い」と評していますが、内容がかなり漠然としていて、具体的な指摘に乏しく感じます。

 東大と京大については、今後卓越研究大学認可に向けて含みを持たせているとして、このようなことを付加しました。

東大には

〈今後、構想の具体的内容を学内の多くの構成員が共有し、全学として推進することが確認できれば、認定候補となりうる〉


京大についても

構想の具体的内容を学内の多くの構成員が共有し、全学として推進することを期待したい〉


文科省など政府が望むように経営などのガバナンス強化をきちんと行えば認めるということだろう。

こちらの指摘も具体性に乏しい印象です。


しかし、東北大は「教授、准教授、助教それぞれが研究室主宰者(PI)として「研究ユニット」を率いる独立型に転換する計画がある」かつ「改革の理念が組織に浸透している」とのことですが、果たしてそうなのでしょうか?以前取り上げましたが、東北大学はテニュアトラック制度で、詭弁としか言い様がない言辞を弄しています。


「名ばかりテニュアトラック」への言い分 〜「東大話法」か 東北大


この問題、東北大が国際卓越研究大学に内定した時、再び東洋経済が取り上げているので、引用します。

卓越大内定・東北大が「名ばかりテニュアトラック」 「若手研究者の安定雇用推進」の看板倒れ


政府からの覚えがめでたい


文部科学省が公表した審査結果の東北大学の箇所を読むと、若手研究者が挑戦できる機会の拡大に向けて若手の安定雇用を推進する「テニュアトラック制度の全学展開を図っていること」が、評価ポイントの1つとして挙げられている。


テニュアトラック制度とは、平たく言えば若手研究者をまず試用期間にあたる3~5年程度の有期雇用で雇い、公正な審査を受ける機会を与えて、それに通過すれば終身雇用を意味する「テニュア」のポストに登用するというもの。発祥はアメリカの大学で世界的にも広く普及しており、文科省も制度として明確に定義している。


研究の世界では終身雇用のポストの数が乏しく、若手研究者は優秀でも長らく有期雇用の不安定な立場にあることが多い。そのため、若手研究者が頑張り次第で終身雇用になれるテニュアトラック制度の導入状況は、政府も大学を評価する際に重要視している。


東北大学では2018年からテニュアトラック制度の導入を広くアピールしてきた。ところが、「実際にはほとんどテニュアに登用していない」という指摘が在籍していた若手研究者から相次いでいる。

具体的にどうなんでしょうか?

東北大学が言う「テニュアトラック制度」は、本来の姿とは乖離した「名ばかりテニュアトラック」の疑惑がぬぐえない。真相を究明するために、東北大学の理事、在籍していた研究者らに直撃した。

〜中略


初めからノーチャンスの事例も少なくなかった


テニュアへの登用率が低いという以前に、東北大学における最大の問題はテニュアへの登用審査すら行っていないケースが多発していることだ。テニュアトラック制度では、本来、テニュア審査に合格した場合に備えて、テニュアポストの空きをきちんと確保したうえで募集をかけるのがあるべき姿だ。だが、東北大学テニュアトラック制度ではさまざまな分野で、そもそもテニュアのいすを用意せずに職員を公募してきた。


するとどうなるか。若手研究者がどれだけ頑張っても、テニュアにはなれないことが初めから決まっているわけだ。在籍していた複数の若手研究者が、「テニュア審査を受けるためにポストの照会をしてもらったが、(受け入れ先となる工学部や理学部などの)部局にポストの空きがないので却下され、そこで終わった」と証言している。

とてもじゃないですが、東北大学を国際卓越研究大学に採択した理由とした制度が適正に実施されているとは言いがたいです。


ここでも、小谷氏の拙い言い訳が厳しく断じられています。

そもそも、小谷氏が主張するように東北大学テニュアトラック制度が一般のテニュアトラック制度とはまったく違うものであるのならば、元よりテニュアトラック制度を名乗るべきではない。


政府からの評価を得たり、優秀な若手研究者を集めたりするために「外部から見れば立派にテニュアトラックをやっているように装う意図」がなければ、その必要性もない。少なくとも、プレスリリースや公募要領には「東北大学テニュアトラック制度は、一般のテニュアトラック制度とは違います」と明記すべきだ。


なぜそのようにしなかったのかをただすと、小谷氏は「私はその当時の担当ではないので、なぜというところはわからない」と話した。


東北大学の手法の是非について見解を文部科学省に問い合わせると、「そうした状況は、これまで把握していなかった」(国立大学法人支援課)という。


東北大学の採択に当たって、本当にまっとうな審議がなされていたのでしょうか?「理屈と膏薬はどこにでもつく」という言葉を思い出します。つまり、どんなことにも理屈をつけようと思えば、もっともらしい理屈がつくということです。