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2023年ノーベル生理学医学賞 〜RNAワクチン

今夏ずっと足が痛かったこと 〜コロナワクチンかな?


今年のノーベル生理学医学賞ですが、自分としての関心は「RNAワクチン開発が受賞するか否か」でした。あとで述べますが、私は必ずしも今回の受賞に肯定的ではありません。しかし、新型コロナウイルスのパンデミック阻止に効果があったのは事実です。


 mRNAをワクチンというか医薬品として使う発想は、結構前からあったと思います。「思います」というか実際カタリン・カリコ氏のエピソードをみると、もう20年以上前からありました。私はそういう臨床的な医薬開発と関係なかったので、何が問題で進まなかったのかよく知りませんでした。今回の受賞でのカリコ氏のエピソードをみると、こう書かれています。

mRNAをワクチンや薬で使うという発想は30年以上前からあった。だが、人工のmRNAは体内では異物とみなされる。強い炎症反応が起き、狙い通りのたんぱく質を効率的につくり出すことができなかった。


 なるほど、TLRの関係だったのか。医療関係の学科だと、講義で免疫論に必ず触れます。ヒトの免疫は大きく「自然免疫」と「獲得免疫」に分けて教えます。これしかし、かなり人為的な分け方だと僕は思っています。要するに「獲得免疫」は進化したリンパ球が関係する免疫、「自然免疫」は進化的に「獲得免疫」ができる前にあったすべての生体防御反応一式です。このごちゃごちゃ色々とある「自然免疫」の中で、白血球が外敵を認識する原始的な機構が「Toll様受容体」ファミリーです。Toll-like receptorですからTLR。Tollはハエのような無脊椎動物にも見られる受容体ですが、ハエでTollは形態形成と免疫の両方に関係します。一見すると関係なさそうな事象ですが、細胞ー細胞の認識機構に使われていたTollが進化過程で外敵の認識に転用されたのでないかと私は思います。ヒトを含む脊椎動物でToll様受容体は形態形成には関係せず、「自然免疫」の一部となっています。


実に様々な外来抗原がTLRによって認識されますが、その中でTLR3やTLR7はRNAを認識しています。


 私が医学部大学院生の時(40年近く前)、所属していた研究室にアルメニアの大学教授がサバティカルで訪問してきました。「アルメニアでどういう研究をしているのですか?」と訊いたら、「RNAの受容体について研究している。」と仰います。はあ?RNAの受容体?なんのこっちゃと思いました。だって普通RNAは細胞の中にしかないから、細胞外から来るなんてごく微量なはずです。その受容体?しかしアルメニアの先生は、「いや、ウイルスとかでRNAウイルスいるでしょ。そういうRNAの受容体」と仰いました。しかし、RNAウイルスと言ったってその塩基配列は様々ですから、エピトープとして共通のものなんてないだろうと僕は思いました。「荒唐無稽な話」と思いましたが、当時TLRなんてまるで見つかっていませんでしたので仕方ないことです。しかしそれ以上に「アルメニアなんて辺鄙な国だから金もないだろうし、やることないから思いつきで研究してるのか」とか、私は大変失礼な偏見に満ち満ちていました。ご免なさい。


 閑話休題。カリコ氏が進めていた体外からのRNA注入は、このTLRの賦活と関係するわけです。RNAはDNAとくらべて壊れやすい物質です。体内に入って分解され断片化したRNAが、マクロファージなど白血球表面にあるTLRを刺激し、炎症反応が起こるわけです。カリコ氏がRNA安定化と分解による炎症刺激を防ぐ切り札として採用したのが、修飾塩基の導入です。


 高校や大学の生物で核酸の塩基は「アデニン、チミン、グアニン、シトシンそしてウリジン」(A T G C U)と教わります。私は学部生時代に使ったレーニンジャーの生化学教科書で、RNAの解説に興味を覚えた一節がありました。それは「tRNAにはアデニン、ウリジン、グアニン、シトシン(A U G C)以外の塩基が存在する」でした。ふーん、遺伝子暗号との関係でそのAUGC以外の塩基は何してるの?と思いました。そのAUGC以外の塩基に、今回話題となっているシュードウリジンもありました。当時これらのAUGC以外の塩基についてあまりわかっていませんでした。しかしtRNAの四葉クローバー状構造の特定部分に集中して見つかります。一般にRNAはDNAと比べて構造が柔軟で、さまざまな立体構造を取れます。しかしtRNAはリボソーム上の翻訳過程でmRNAのコドンと対合する必要があり、ぐにゃぐにゃしていると問題が起きます。おそらくtRNAの構造安定性にこれらAUGC以外の塩基が関係しているのでないか?と私は思いました。おそらくこの考えで間違ってなかったと思います。今となるとこういう修飾塩基はtRNA以外にもmRNA, rRNAにも見つかっていますが、多いのはtRNAです。





 カリコ氏はおそらく核酸化学について相当な知見をお持ちと思われ、この修飾型塩基をRNAに導入すれば、そのRNA安定性につながるのでないかと考えたのでしょう。しかし医薬としてRNAを使うことを考えると、自然界のmRNAはあまり存在しないシュードウリジンの導入には当然ためらいがあったと思います。この点が研究停滞につながったのでないでしょうか?しかし今回の新型コロナウイルスのパンデミックで、RNAワクチン開発は待ったなしとなりました。そういう外圧を受けて進んだRNAワクチン開発がみごとに成功したのが、今回の受賞理由と考えます。


 しかし、このRNAワクチンは本当に安全なのでしょうか?まずmRNAが一般に不安定なのには、理由があります。mRNAは多ければいいものではない。「必要な時必要な量がつくられ、用済みとなったらただちに分解」が重要です。生体内のmRNAはそれぞれに固有の半減期があり、それは主に3'UTR(untranlated region 非翻訳領域)にある配列と関係します。それを人為的に長く安定な構造にしたのは、二次的な問題を起こす可能性があります。


 人工的なmRNAにはもうひとつ懸念があります。それは「そのmRNAから産生されるタンパク質が、細胞内の他のタンパク質と相互作用する可能性」です。今回のRNAワクチンでつくられるタンパク質は新型コロナウイルスのスパイクタンパク質ですが、それそのものではありません。人為的に短くされていますが、その結果としてヒト細胞自身が持つ別なタンパク質と複合体をつくる可能性はないのか?新型コロナウイルスワクチンの副反応以外に後遺症と呼ばれている症状もあります。その多くは体内の過剰な炎症反応の誘起で、一種の自己免疫反応といっていいでしょう。現時点でその発症メカニズムはよくわかっていませんが、一つの可能性として「ワクチンから造られたタンパク質とヒト本来のタンパク質が複合体形成するなら、想定されてなかった部位がエピトープとして認識される」があると思います。もしかすると新型コロナウイルスの自然なスパイクタンパク質自体にも、そういう相互作用があるかもしれません。新型コロナウイルス感染で多発する心筋炎の原因にも、免疫干渉以外の理由もあるのでないかと考えます。


 カリコ氏、ワイスマン氏のノーベル賞受賞は意義あることと思いますが、そのワクチン開発は現時点で手放しで推奨されるものかどうか慎重に検証する必要があると、私は考えます。