インプラントが脳に刺さった　〜ヒェ〜ッ！

今回のインプラント刺入事故で一番気になるのは、なぜそんな上まで刺さってしまったか？です。そこで日本で1999年あった「割り箸刺入事故」を思い出しました。wikiから引用します。

杏林大病院割りばし死事件

杏林大病院割りばし死事件（きょうりんだいびょういんわりばししじけん）とは、1999年（平成11年）7月10日（土曜日）に東京都杉並区で綿菓子を食べていた男児が転倒して、喉を割り箸で深く突き刺し、その後死亡した事故[1]。単に割り箸事件とも呼ばれる[2]。その後、刑事・民事訴訟で医師の過失の有無が争われたが、いずれも医師に過失はなく男児の救命は不可能であったとの判決が下った。

詳細です。

事故発生

1999年（平成11年）7月10日（土曜日）、男児が兄と一緒に教員である母親に連れられて、東京都杉並区で行われた盆踊り大会に遊びに来ていた。男児と兄は綿菓子をもらって食べていたが、母親は、兄に「（男児を）見ていてね」と伝え、チケットを手に入れるためその場を離れた[5]。男児は綿菓子の割り箸を咥えたまま走っていたところ、午後6時5分ごろ、うつぶせに転倒し、その弾みで咥えていた割り箸が喉に刺さった[1]。刺さったときに割り箸は折れたが、男児は自力で割り箸を引き抜き[5]、引き抜いた割り箸の所在は不明となった。受傷時、一時的な軽度の意識障害が見られたが、その後すぐに意識を取り戻した。

〜中略

6時50分頃、耳鼻咽喉科の医師の診察を受けた[1]。その際、医師は母親から「転んで割り箸で喉を突いた」旨を説明されたが、割り箸が折れた事実は誰からも知らされなかった[5]。医師は受傷部位を視診・触診したが、傷口の深さは不明だったが、裂傷があるものの小さく止血されており、硬いものなどが触れることもなかった。

〜中略

翌日午前7時半ごろ、男児の容態がおかしいことに兄が気づき、母親はただちに救急要請した。救急隊到着時には男児は既に心肺停止状態となっていた。午前8時15分ごろ、再び同院に救急搬送され蘇生処置が施されたものの、午前9時2分に男児の死亡が確認された[6][1]。心肺蘇生中、2名の医師が軟口蓋の傷を視診及び触診したが、異物等は確認できなかった。死亡後、割り箸の残存も疑われ頭部CTが施行されたが、それでも割り箸の有無などは分からず、死因不明であった。杏林大学は異状死として医師法21条に基づき直ちに警察に届け出た。検死で警察医も口腔内を観察したが、異物等は発見されなかった[5]。

7月12日、司法解剖が行われ、初めて喉の奥に深々と割り箸の破片が刺さっており、小脳まで達していたことが判明した。父親は警察から司法解剖の結果の報告を受け、頭蓋内に割りばし片が残存していたことを知り、警察に対してその事実を母親に伝えないよう依頼した。7月13日、大学は記者会見を開き、事故が公となった[4]。その約2週間後、母親は父親から男児の頭蓋内に割りばし片が残存していたことを伝えられた。

この事故は医療過誤を巡って、刑事・民事の両方で争われましたが、結局医師・病院側に過失はなかったという判決になりました。きわめて希有な事故でこのような前例がなかったのです。どういうことかというと、下の図です。

割り箸は喉奥の上咽頭壁に突き刺さり、頸静脈孔という孔を通じて頭蓋腔内に入ってしまったのです。普通だと割り箸のようなあまり硬くない物体は頭蓋骨に当たって折れてしまいます。しかし偶然頸静脈孔という脳神経や血管が出入りする孔を貫通したための事故でした。上図のように狭い孔のため刺入方向は限定され、普通貫通はまず起こりません。割り箸は木なのでCTも含めたX線画像では映らないこともあり、不幸な偶然でした。

　今回のトルコのインプラント事故は、上顎洞刺入まではあり得ることです。というか力任せにねじ込んだら、比較的簡単に突き抜けます。問題はどうやって上顎洞から眼窩に侵入し、さらに脳底部にまで達したのか？です。上顎洞と眼窩の間には、上顎骨があります。ここには頸静脈孔のような大きさではないですが、眼窩下底から「三叉神経第二枝」の分枝である「上歯槽神経」が上顎洞に向かって貫通しています。この中で注目は中上歯槽枝です。

位置的に今回治療しようとしたと思われる左上顎大臼歯のちょうど真上です。口腔外科医の力が余って金属体が上顎洞へと突き破った後、この中上歯槽枝が通過する孔を貫通したのでないか。ここから眼窩に入ると、その後どうなるか？

上の図で赤い丸をしたところが「眼窩下溝」といい、上の図の中上歯槽枝の貫通する孔の眼窩側です。ここから眼窩を通過し、矢印先端にある上眼窩裂内側端を通ると頭蓋底に達します。

　今度は今回のトルコ症例で正面から撮ったレントゲン写真を見てみましょう。

金属体先端がやや内側に傾いていますが、ほぼ同じでしょう。眼窩の骨は他の頭蓋骨と違って薄く、骨が金属体刺入で割れる可能性もあります。しかし、大方このルートだと思います。日本の割り箸事故と違って金属体ですからレントゲン写真でもはっきり見えます。そのため画像上の位置確認が容易でしたが、やはりかなり珍しい事故だと言えます。

　学生時代、解剖学で頭蓋底の孔には苦労しました。各々頭蓋内腔側と頭蓋外側で名称が違うのが多く、かつ枝分かれするものが多いです。通るものは血管、神経がいろいろでそれらも覚えないとならない。めんどくさいことこの上ないです。しかし、こういう珍しい事故が起こることを考えると、やはりこういう勉強も大事だと、この歳にして改めて実感します。