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東大目指せぬ地方女子 〜地方社会だけの問題か?

6月2日の読売朝刊に興味深い調査の記事が出ていて、その表題が上記です。「目指さぬ」ではなく、「目指せぬ」で、そこに焦点を当てています。東大そして京大も目立ちますが、旧帝大は一般に女子学生の比率が他の国立大と比べて有意に低いことが知られています。東大の現役女子学生2人(川崎さん、江森さん)が始めた今回紹介される調査は、東大がというより地方の女子高生が出身地の地元の大学に進むかそれとも大都市圏の大学に進むかという「地元VS都会」の視点で分析されています。


 まず地方の女子高生は同じ地方の男子高生とくらべて出身地の大学に進む傾向が高いことが示されています。その一番の原因が「親の期待として、大学進学時女子には地元に残ってほしい」があるせいでないかということでした。つまり学生本人の考え方というより家族、ひいては地方社会の考え方が進学先の選択に影響しているということです。この調査に続いて紹介される宮崎公立大准教授の寺町晋哉氏の考察は、以前から私が思っていたことと同じでした。なぜ女子は地元に残ってほしいかの理由のひとつに、寺町氏は親の老後生活の介助を挙げています。私が思うに、日本では一般に「老後の世話で、息子より娘の方が頼りになる」という考えがあります。男性の場合結婚すると妻とその実家との関係重視となるのに対して、娘は結婚しても自分の実家にこだわります。これまさに表裏一体の関係ですね。そうなるともし娘がいた場合、親は娘を手元に置きたがる、そのために大学進学は地元を勧めるというわけです。


 もし娘が東大でも進学できるほど優秀となれば、地元の大学でその学力と見合う学部となると医学部しかありません。それに身内が医者になってくれれば老後もっとも心配な病気や怪我でも、非常に心強いものがあるだろうと私は思っていました。寺町氏も同じことに触れていて、「地方女子にとって地元国立大に入って医者になるか公務員になることが一番の成功物語になっている」と述べています。そうですね、地方に大企業は少ないですから、安定した高収入の職となると医師か公務員かの二択でしょう。なかんずく、医師の収入は女性が得る賃金として地方では最高位といっていいでしょう。


 寺町晋哉氏の調査による「各都道府県で4年生大学に進む男女別の学生比率」のグラフでも、紹介されている20都道府県のほぼすべてで男性の4大進学率が女子を上回っていました(2022年調査)。その中で唯一例外で女子の進学率の方が高かったのが、徳島県でした。徳島県か。まったく違う方向ですが、実は徳島県は、厚労省の調査で「医療施設に従事する人口10万対医師数」が全国トップクラスで多い県なのです。しかもです。女性医師の比率が東京・京都のような大都市圏と並んでこれまたトップクラスに多い県でもあります。これから想像するに徳島県には一般に教育に熱心な家庭が多く、もし娘がいて成績優秀とわかると、東大などより地元の徳島大学医学部に進ませて医者にしていることが多いせいでないでしょうか?徳島大医学部は四国4県の医学部の中で一番歴史があります。私は社会学者でないので良く知りませんが、徳島県は他の地方県と比べても特に保守的閉鎖的な印象が個人的にはあります。県庁がある徳島市ですら、大学の教員が週末どこか市内の店に買い物に行くと、翌週には「〜先生があそこの店にいらした」と学生の噂になると聞いて、仰天した憶えがあります。


ただ寺町氏のグラフをみると、もう一つの傾向に気づきます。それは徳島の例外を除いて東京・大阪といった大都市圏から秋田・鹿児島といった地方まですべて同じく「男子の4大進学率が女子より高い」ことです。つまり女子より男子の高学歴指向は、「地方の問題」だけではないのです。地方より大都市圏の都道府県の方が4大進学率が圧倒的に高いことは非常に明瞭です。その進学指向の都市・地方の格差は措くとして、男女の高等教育格差は日本全体の問題なのです。


 最近上位の国立大では女子学生率を上げようとやっきです。今回調査した東大生の2人も地方の女子高生にオンラインで東大のよさをアピールする地方女子限定のメンター制度を今月始めたと出ています。今「東京科学大」設立で注目される東京工業大は、2022年11月に学部入試に「女子枠」を設けることを発表しました。とりあえず143人の女子枠とのことですが、東工大の学部一般入試の定員が1094人であることを考えると、これはかなり多いです。東工大の学部段階の女性比率は現在約13%で、女子枠設置で20%超を見込むと出ています。AERAの記事では、女子枠については賛否両論、というか反対論がかなり強いようですが、益一哉学長は「歯を食いしばってでも」方針を貫く姿勢だそうです。「多様性を獲得していかないと、大学が世界的に生き残れないから」とのことです。これは確かにその通りだと、私も思います。しかしこの試行は果たして成功するでしょうか?


 私が心配なのは、日本人の国民性として根強い保守傾向です。それが上の都市・地方に関わらず、日本全体として高等教育の男子偏重があることです。またたとえ高学歴を得たとしても、社会的な活躍は女性に保証されているでしょうか?たとえばここ20年ほど医学部では女子学生が飛躍的に増えてきました。私の母校では同学年で女子は100人ちょっとでわずか6人しかいませんでしたが(!)、今はコンスタントに20%強くらいいると聞きます。問題は医師になった後の継続率です。女性医師は結婚すると出産は避けて通れず、子供ができたのを機会にリタイヤするひとがかなりいると言われています。たとえ子供の手が離れて復帰してもパートが多く、常勤職に戻る女性医師はかなり少ないと言われています。これも本人の意思というより、社会的に「母親に期待される専業主婦像」が依然大きいことがあると思います。医師になるような「良家の子女」なら、まずは自分の子供の教育第一にせよとの圧力はますますということです。これ、決して杞憂ではないと思います。というのは先ほど述べた女性医師率が全国有数に高い徳島県ですら20%弱程度なのに、現在徳島大医学部の女子率は40%強を占めているからです。この差は一体なぜなのか、十分考える必要があるでしょう。しかし、日本が世界で取り残されないためにも、女性の活躍の場を増やす施策は是非とも進めないとなりません。