gillespoire

日常考えたことを書きます

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

ホタテ養殖に「厄介者」 〜なんと勿体ない評価!

サラガイ(シロガイ) 〜オホーツク沿岸で獲れる貝
「コンキリエ」 〜厚岸の「道の駅」JR駅からも近い
氏家のかきめし 〜ここが本店だったのか!
エゾイシカゲガイ 〜日テレ「満天☆青空レストラン」


日経の夕刊に驚くべきニュースが出ていました(私としては!)。


ホタテ養殖に「厄介者」

青森・陸奥湾、欧州カキ付着 人知れず繁殖し湾内定着か

2024年4月16日


青森県の陸奥湾で、養殖ホタテに謎の二枚貝が付着し漁業の妨げになっている。この「厄介者」の正体が、半世紀以上前に養殖試験のため持ち込まれた欧州原産のカキであることが、青森県産業技術センター水産総合研究所の調査で分かった。大規模な養殖試験は1980年代に終わったが、その後も人知れず繁殖を続け、湾内に定着したとみられる。

ここまで読んで、「これってもしかしてブロンのこと?」と感じました。

研究所によると、このカキは欧州原産の「ヨーロッパヒラガキ」。丸く平たい見た目が特徴で、直径は10センチほど。「血の味」と形容される強い渋みがシャンパンや白ワインに合うとされる。古くから生食用としてフランスや地中海沿岸で愛されてきた高級食材だが、近年欧州では病気の流行などで生産量が激減している。

やはり、ブロンで間違いない。フランスなどヨーロッパでは何世紀も前から、おそらく古代ローマの時代から好まれていたカキで、「Belon」と書きます。

Philippe Rousseau の静物画(19世紀)


チーズプロフェッショナル協会のサイトからの引用です。

数百年前まではノルマンディーからブルターニュあたりの海岸には天然のカキが海底に無尽蔵に転がっていて誰でも取り放題だった。それが乱獲で一気に量を減らし、やっと1840年頃から取り締まりを強化するがほぼ絶滅してしまう。それを救ったのが養殖技術の普及でした。以後フランスのカキは100%養殖になるのです。


ところが1960年代に、またもやフランス・ガキ(平ガキ)に病気が蔓延して、再度絶滅の危機に立たされます。世界各国から種ガキを取り寄せるもすべて失敗。それを救ったのが日本のカキ(真ガキ)なのです。1966年に宮城県から空輸された種ガキが見事に定着。以後種ガキの供給は1980年まで続きます。こうして再度よみがえったフランスの養殖カキの品種は宮城県原産の真ガキが主流となる。(「フランスを救った日本の牡蠣:山本紀久雄」より)。

日本で言うカキは細長い舟みたいな形をしていますが、ブロンすなわちヨーロッパヒラガキは丸くて平らな形状をしておりかなり違います。


上記日経記事でブロンの減少は近年となっていますが、1960年代には減少が始まっていました。もう60年前からでフランスでブロンは「幻のカキ」と言っていいです。このカキが激減したのは、Bonamia ostreaeという原虫(単細胞動物)の一種の感染症が流行したためで、今に至るまで回復していません。今フランスで大量に消費されるカキは、実は日本のカキです。獲れなくなったブロンに替わって、日本のマガキの種苗がフランスに輸出され、それが大々的に養殖されているのです。


再び日経の記事です。

日本には52年にオランダから持ち込まれ、66年に陸奥湾で養殖試験が始まった。新たな水産資源として期待されたが、日本のカキとは異なる独特の味が当時の人の舌に合わなかったためか需要は伸びず、ほとんど流通もしなかった。


しかし、最近になって陸奥湾各地で養殖ホタテに付着する二枚貝の存在が相次いで報告された。2022年、研究所の中山凌研究員が詳しく調べたところ、形状や貝柱のDNA解析からヨーロッパヒラガキと判明した。湾内での生息実態は不明だが、今のところ生態系への大きな影響は確認されていない。

 1950年代にヨーロッパヒラガキが日本に持ち込まれていたことは初めて知りました。しかし、「日本のカキとは異なる独特の味が当時の人の舌に合わなかったためか需要は伸びず、ほとんど流通もしなかった。」とは驚きです。自分のフランス滞在中、一度だけ味わうチャンスがありました。生で食べましたが、実に美味で濃厚な味わいでした。

加熱して食べてみたという中山さんは「身は硬く淡泊な味わい。日本のカキと全く違う印象だが、かすかなうまみは感じた」と一定の評価。「半世紀前とは日本人の嗜好も変わっているはず。ワインに合う珍味として生食で売り出すことができれば、注目される可能性はある」と指摘する。

そうかな?ブロンは確かに普通のカキとやや異なる味ですが、生で食べる限り普通のカキの金属くささがなくずっと上品な風味です(上に書かれる「血の味」というと金属っぽい味になりますが、そうは感じなかった。何かの間違いでないか?)。フランス人は今でもブロンを非常に珍重します。あまりにもったいない評価で、驚きました。確かに外来種の貝ですが、日本にはもうcherry stone、すなわちホンビノス貝は定着し普通に流通していますから、ブロンも普通に流通してくれるととても嬉しいです。

ただ、ホタテ生産の妨げになることから養殖は難しく、天然ものを生食で流通させるには大規模な貝毒検査が必要となるなど、活用のハードルは高い。県水産振興課の担当者も「商品化の話は時期尚早」と慎重だ。


中山さんは「ここまで繁殖した要因や生息域など、分からないことが多い。まずはホタテへの付着状況などのデータを集めたい」と話している。

ホタテの生育がブロンによって特異的に阻害されているとは、ちょっと考えにくい。是非この貴重で美味なカキが日本でも味わえるようになってほしいです。


 追伸:日本のマガキのフランス移入に関して、水産研究・教育機構の旧サイトにこんな記載がありました。「松島がきの今昔」と題した小金澤昭光氏の記事抜粋です。

1960年代に入るとフランスを中心として大西洋沿岸並びに地中海で在来種であるフランスガキ,ポルトガルガキの大量へい死が続いたことにより彼の地で1966年にマガキの養殖試験を行うことが我が国の研究機関,業界に要請された。最初約400kgの種苗が空輸され,移殖実験に供された結果,日本産マガキの種苗としての価値が改めて認識された。その後1970年に本格的な移植がおこなわれるようになり,最盛期の1972年には5,000トンに達した。その頃,チャーター便が年に180機も動員され,帰り便でフランス産ウナギ種苗が輸入されるという具合であった。当時日本産のマガキが,太平洋,大西洋にかけて,“民族の大移動”ともいえる産業的規模での移殖実験を通して,その種特性の優秀性を世界中に喧伝されたものである。