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2023春なぜシラウオが出回らなかったのか 〜顎口虫だったのか



1月に入り暖冬と言われる今冬も大分寒くなりました。大学入試センターの試験をおこなうこの時期、昼休みに試験場の外に出るといつも手がかじかむ思いですね。この後私大の一般入試が始まり、山場の国立大の二次試験が終わってふっと気づくと、いつの間にか陽光が強くなって春めいています。受験生の皆様におかれましては、その時期どうか吉報が届くようお祈りしています。


 さてその3月春先、受験とは全然関係ないですが、私が心待ちにしている旬の魚介があります。シラウオです。半透明の細長い魚体をポン酢でいただくと、かすかな苦味とこりこりした食感以外特別なものは感じられません。しかしその淡い食味が如何にも春になったなと感じられて、ふんわりと良い気分になれます。


 ところが!2023年の春、近所の店の鮮魚コーナーにシラウオはまったく出て来ませんでした。あまりに出回らないので、いったいシラウオの産地が何処なのか調べました。そうしますと北は北海道から南は中国地方まで至る所で獲れることがわかりました(*九州地方で食すシロウオはハゼ科の別魚種)。と同時にあちこちで「シラウオ不漁」というニュースが出ているのに気づきました。


茨城県

令和5年2月16日

和4年のトロール漁について ・県より報告。ワカサギは霞ヶ浦は過去5年平均を下回り、北浦は不漁。シラウオは霞ヶ浦は前年より低めで推移し、北浦は直近3年で見ると少し上昇。

これ以外にも「ここ数年不漁」という記事が散見されました。これは気候変動、つまり温暖化のせいかな?もしかして全国的にシラウオの棲息は少なくなっているのかと気を揉みました。


ところが本日こんな記事を見つけました。


もう1年近く前の記事で、今頃なんで出て来たのかわかりませんが、このニュース全然知りませんでした。そこで調べると、こんな記事が2022年11月にTBSで出ていました。


「幼虫が体の中をさまよい続ける」顎口虫が皮下に入るメカニズムとは?アニサキスだけではない怖い寄生虫 なぜ青森県で大量発生?


11月29日、青森県が初めて感染確認を発表した顎口虫症(がっこうちゅうしょう)




寄生虫が皮膚の下に入り込み、かゆみや腫れを引き起こします。この寄生虫が、どうやって皮膚の下に入り込むのか、なぜ開発が進んだ現代に大量発生したのかを専門家に聞きました。


こちらが寄生虫の一種、「顎口虫(がっこうちゅう)」の成虫です。



今回、この顎口虫症と似た症状が確認されたのは、上十三保健所管内と八戸市内の約130人。その多くが、シラウオを加熱せず食べていました。筏井准教授によりますと、シラウオの中にいた顎口虫の幼虫が人の胃や腸を突き破って筋肉を通り皮下組織まで移動したとみられるということです。


ああ、これが原因だったのだな。顎口虫か。懐かしい名前の寄生虫です。大学の寄生虫学で学びましたが、顎口虫の親虫はイタチなどの肉食獣の腸管に寄生し、生んだ卵は糞とともに排出されて水中に入ります。水中で卵はケンミジンコというプランクトンに食されその体内でふ化します。ケンミジンコにいる幼虫は魚に食べられて、魚の体内に移動します。その魚を何らかの型で陸上に棲む肉食動物が食べると、その腸管で親虫となり、卵を生むという生活環になります。



ところがその感染魚をヒトのような肉食動物でない動物が食べると親虫にならず、幼虫のまま腸管から体内に入り、あちこち移動します。上記の写真がその結果で、皮下あるいは皮膚内を移動するものを皮膚爬行症(creeping disease クリーピングディジーズ)と言います。幼虫移行症ともいいますが、爬行の方が実感がありますね。


 wikiには恐ろしい記載があります。

幼虫は長期間にわたり生存し続け、臓器、脊椎、脳、眼球に侵入することもある。脳や眼球に到達した場合、脳障害や失明といった重大な症状を引き起こすことがある。

皮下の移動なら摘出可能ですから、幼虫は必ずしも一匹とは限りません。感染すると厄介なことになりそうです。


 しかし、顎口虫の幼虫がシラウオにいるとは、知りませんでした。大学で教わった顎口虫の感染源はライギョでした。


なんかヘビみたいで不気味な姿でしかもかなり大きいです。ライギョは何種類かいますが、いずれも日本には元々おらず中国大陸が分布域でした。第二次大戦前ライギョは大陸から日本に輸入され、その後日本の河川に住み着いた外来種と言われます(調べたら北海道にはライギョの固有野生腫がいるようですが、まだ確定ではない)。なんでこの魚が輸入されて増やされたかというと、釣りでの引きの強さが好まれたこと、そして「美味しい魚」だからです。


実は中国では海産魚はあまり馴染みがなく(ナマコ・アワビの乾物くらい)、主に川魚を食べます。しかも、川魚を生か生に近い状態で食べる食習慣があるのです。その生食に適した魚がライギョで、好んで食されるようです。


グロテスクな外見の魚ですが、身はきれいな白身で泥臭さもないそうです。しかし、しゃぶしゃぶくらいでは、顎口虫はなかなか死にません。ですから、中国では顎口虫症は今でも相当多いと想像できます。冷凍すればアニサキスのように死にますが、生の方が食味がいいでしょう。


 しかし、上記の青森県では1990年代までシラウオの顎口虫寄生は確認できなかったそうです。なんで急に顎口虫感染が多くなったか?ですが、取材に応じた地元の北里大獣医学部の筏井(いかだい)准教授「今年、大雨があったので、(顎口虫の卵が)一気に(シラウオの生息域へ)流れていったのか、色々なことが考えられる」と話しています。今回顎口虫感染の患者発生が一番多かったのは、小川原湖(青森県東北町)名産のシラウオを生で食べていた人だそうです。この小川原湖に流れ込む河川から顎口虫の卵が流入した可能性が高いのでしょう。小川原湖の位置は下の地図となります。



小川原湖の位置は青森県東部沿岸の緩やかな平地なので、流入する河川もそう急に流入量が増えるとは考えられません。ひとつ気になるのは、2023年7月のNHKのニュースです。

このニュース内容は以下です。

県内では一度は絶滅したとされるイノシシが数年前から増加していて、昨年度のイノシシによる農産物の被害額が前の年度より3.4倍に急増したことがわかりました。


青森県ではイノシシは100年以上前に絶滅したとされていましたが、近年、目撃される数が増えていて岩手県や秋田県から北上しているとみられています。


県が昨年度のイノシシによる農作物の被害を取りまとめたところ、速報値で、面積にして1.6ヘクタール、金額にして538万円となっていて、前年度と比べてそれぞれ3.6倍3.4倍と急増したことがわかりました。


地域別では、新郷村や階上町、五戸町などの三八地域がほとんどを占めています。


作物別ではナガイモなどの野菜が481万円と全体のおよそ9割を占めていて次いでコメが28万円、トウモロコシなどの飼料作物が16万円分被害にあっています。


また、県によりますと、今年度も五戸町でツクネイモが掘り起こされ、食べられてしまう被害が確認されているということです。


県の担当者は「県内でもイノシシが急速に増え農作物の被害はもとより豚の伝染病の豚熱の感染リスクも高まる。県としては市町村と連携しICT技術を活用するなどして被害を軽減したい」と話しています。

この記事では豚熱の伝播を案じていますが、イノシシには色々な病原体がいます。そのひとつが今回問題となっている顎口虫です。新郷村や階上町、五戸町は三八地域といって、小川原湖よりはやや南の地域ですが(上の地図参照)、かなり近いです。イノシシの棲息域拡大は今回の顎口虫症の急増と関係している可能性があります。実はイノシシは寒さには比較的強いものの、積雪が多い地域には棲めません。シカと違って脚が短いイノシシは深い積雪があると移動できないからと考えられています。従って東北地方でも日本海側の山形や秋田、さらに南の北陸3県もイノシシ生息数はないかあっても少ないのです。近年の青森県東部でのイノシシ増加は気候温暖化による青森県東部の積雪量減少傾向と関係するのでないでしょうか?別な記事では

青森県は、寄生虫が皮膚の下に入り込み、痛みや腫れを引き起こす「顎口虫症(がっこうちゅうしょう)」が青森県内で初めて確認されたと発表しました。

と書かれていたのも気になります。つまり、少なくとも記録に残る過去、青森県での顎口虫感染は報告されてなかったということです。


 しかし不思議なこともあります。流通するシラウオは何処から来るか調べると、以下のようでした。

予想通り青森県産が一番多いです。その多くが小川原湖でしょう。しかし第2位の茨城県もかなり多く、こちらは主に霞ヶ浦産でしょう。ところがこの霞ヶ浦産のシラウオについては以下のような報告があります。


なんと、霞ヶ浦産のシラウオには顎口虫が感染してないのです。かりに青森のシラウオでの顎口虫増加がイノシシ増加と関係するとしても、イノシシの増加だけで決まるとも言えません。イノシシがいきなりシラウオを摂食することは考えられず、水中魚類から陸上動物への感染は別ルートでしょう(ヘビとかカエルかな?)。小川原湖のシラウオの顎口虫感染増加が、気候温暖化による生態系変化の一環だとしても、その機序解明はなかなか難しいかもしれません。
 おもしろそうな研究課題ですが、一般人としては早く安心してシラウオをいただきたいです。果たしてこの春はどうなるでしょうか?