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「身近な寄生虫のはなし」 〜初学者向きです

脳を食い荒らすアメーバ 〜Negleria fowleri


研究室にいつ買ったか記憶がない本がごろごろしています。その1冊が今回紹介する寄生虫の本。


 これ、大学の教科書代わりなんですかね?寄生虫学の教科書の定式通り、単細胞の原虫から段々高等な寄生虫に順に従って記載されています。目を通すと、知らなかった寄生虫はサイクロスポーラだけで、あとの22項目の寄生虫は学習済みでした。サイクロスポーラは世界中にいるようですが感染報告は途上国に多く、典型的な糞便感染です。日本での初の報告は1996年3月東南アジアから帰国した旅行者とのことなので、我々の年代では教わることがなくて普通だったのでしょう。


 感染エピソードがそれぞれの寄生虫で紹介されていますが、興味を持ったのが幾つかありました。まず旋毛虫(通称トリヒナ、Trichinella spiralis)。1897年に気球で北極探検を目指したスェーデン隊の遭難は、初めて知りました。消息を絶った3人が遺体で発見されたのは、実に33年後でした。結氷で気球が墜落した時は元気だったのですが、その後食料として食べたホッキョクグマから旋毛虫に感染したのです。全身感染から衰弱してついに全員死亡したのです。大学講義でも旋毛虫は恐ろしい寄生虫として習っており、主として肉食・雑食の動物肉から感染します。旋毛虫がいやらしいのは肉を冷凍しても死なないことです。加熱されないジビエの肉を食べて感染する症例は、日本でも時々報告されています。被嚢幼虫には駆虫薬が無効なのが怖い点で、大量感染すると打つ手がありません。


 西郷隆盛がフィラリアに感染していた話は聞いた記憶がありましたが、西南戦争で自刃した後の検分では、その結果としての陰嚢水腫が証拠となったことは知りませんでした。明治天皇行幸のパレードでも隆盛が馬に乗ることができなかったのはそれが理由だったそうで、南洲翁がそこまで大キンタマに苦しんでいたとは!おそらく若い時奄美大島に流罪になった時、感染したのでないでしょうか?我々が医学生の頃、もっとも有名な教科書は「図説人体寄生虫学」(南山堂)でした。京都府立医大教授の吉田幸雄先生の著書ですが、恐ろしい身の毛もよだつ写真のオンパレードで、食い入るように読みました。まさに目が釘付け(笑)。その中のひとつに国内フィラリア感染症の例として、徳之島の男性の写真がありました。ペニスがリンパ浮腫のため巨大化しており、先端は足元すれすれとなり太さも足と同じくらい。「うーむ、この方は一体どうやって用を足したのだろうか」と心配になりましたが、写真を提供していただいたこと感謝しております。


 広東住血線虫の項では、声のためと称してナメクジを丸呑みする人がいまだに結構多いと出ていて、仰天しました。本当かね?自殺行為です。髄膜炎などで激しい頭痛が起こり、死ぬことも稀でないです。余談として著者の娘さんが髄膜炎になったことが書かれております。幸い本当の髄膜炎でなく「突発性発疹」だったとわかり、誤診した医者にバックドロップの2,3発も食らわせてやりたかったと書いてあります。でも突発性発疹、稀にですが脳症に移行して重篤になりますからね。


 これから寄生虫学を勉強しようと思う学生などに、お勧めします。無論一般の方にも教養書として勧められます。


「身近な寄生虫のはなし」宇賀昭二・木村憲司著 技法堂出版 2002.5.10