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「病原体の世界」 〜感染症を学ぶ医学生は是非読んで


空腹にさせれば、狂ったように血を吸う…! 〜ペストの恐ろしさ


この本には以前紹介した「ペストの毒性」の記事内容が収められています。というかそちらの記事がこの本の紹介だったわけで、私はペスト毒性の巧妙な機序に興味を抱いてこの本を購入しました。滋賀医大の旦部幸博先生が書いた本ですが、病原体の性質について最新の解説がなされています。医学部の教科書でもそういった病原体の性質は書かれていますが、「なぜそういう性質になるのか?」というメカニズムはここまで詳しく記載されていません。その意味でこの本は医学生には必見の書と思います。


  最初の部分は感染と免疫の総論的内容なので、ここは飛ばしました。各論の病原体ごとの内容がおもしろいです。ペストはすでに紹介したので、それ以外の記載について興味深かったものを列記します。


高病原性トリインフルエンザウイルスのヒト感染
 なぜ濃厚接触するとヒトにも感染するのかよくわかりました。


梅毒
 「鬼滅の刃」の鬼たちは先天性梅毒の症状を模していたのか。


コレラ
 コレラ菌にもクオラムセンシングがあったのか。水を好む細菌にはバイオフィルム産生型が多いのでしょうか。


大腸菌
 ベロ毒素以外の大腸菌毒性について手際よく書かれています。医学生必読。


麻疹
 「免疫記憶喪失」という現象は初めて知りました。


ボツリヌス
 蜂蜜のボツリヌス菌高頻度は知りませんでした。乳児ボツリヌス症は有名ですが、その割に事例報告が少ない。私は蜂蜜のボツリヌス菌頻度が低いせいと思っていました。


HIV
 昔からHIVがマクロファージなど抗原提示細胞に感染する理由を謎に思っていましたが、自然免疫にもHIVは重要なんですね。


デング熱
 なぜワクチン開発が失敗に終わったのか、中和抗体がうまく働かないせいだったのか。


 それぞれを詳しく書くと読む楽しみが半減してしまうので、興味をお持ちになった方は是非読んでみてください。


 「病原体の世界」 旦部幸博・北川善紀 講談社ブルーバックス 2022.8