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千葉大の学長選考2 〜千葉大文学部の反応と学費値上げ

千葉大の学長選考1 〜大学の学長はどう決めるべきなのか?
千葉大の学長選考3 〜学長候補たちと「白い巨塔」のモデル
千葉大の学長選考4 〜国立大学の受益者は誰なのか


本日の千葉日報には、千葉大学長候補の一人で教員意向聴取では第一位の得票を得た山田賢氏が所属する千葉大大学院人文科学研究院教授会から質問書が提出されたことを報じています。

【速報・追記あり】千葉大学長選「疑義」で質問状 人文科学教授会「合理的理由を」 投票2位の候補選出


1月25日に行われた千葉大学(千葉市稲毛区)の学長選考を巡り、同大大学院人文科学研究院教授会が、選考に疑義があるとして「学長選考・監察会議」に質問書を送付していたことが1日、同大などへの取材で分かった。教職員による投票で1位に100票近い差をつけられ2位だった横手幸太郎氏=副学長、同大付属病院長=が新学長に選ばれており、同教授会は、投票結果を覆した合理的理由を説明するよう求めている。同大によると、教職員による投票結果で1位になった候補者が学長に選ばれなかった例は初めて

今回の学長選考は、中山俊憲学長の死去に伴い行われ、横手氏のほか、副学長で人文科学研究院教授の山田賢氏、医学研究院教授の松原久裕氏の3人が立候補。1月19日に行われた教職員の投票では山田氏534票、横手氏446票、松原氏350票だったが、25日の同会議で横手氏が学長に選ばれていた。

千葉大文学部のサイトに質問書が掲載されており、長文ですが大事な点なので転載します。

2024/01/31 (水)
千葉大学大学院人文科学研究院教授会は、1月25日(木)に行われた千葉大学学長選考・監察会議による学長となるべき者の選考について、国立大学法人千葉大学学長選考規程に照らして疑義があると認めたため、以下のとおり質問書を提出・公開することを決議しました。同会議の迅速かつ真摯な対応を望みます。



令和6年1月30日

千葉大学

学長選考・監察会議

議長 殿


千葉大学

大学院人文科学研究院教授会


質 問 書


平素より千葉大学の運営にご尽力いただき敬意を表します。

今般の学長選考では、1月19日(金)に実施された学内意向聴取において、対象者の90%以上が投票(不在者投票を含む)に参加するなど、多くの教職員からきわめて高い関心が寄せられました。学内意向聴取の結果、得票数1位は山田賢氏で534票、2位は横手幸太郎氏で446票、3位は松原久裕氏で350票でした。しかしながら、1月25日(木)に開催された学長選考・監察会議においては、学内意向聴取の結果と異なり、横手氏が学長となるべき者に指名されました。

国立大学法人千葉大学学長選考規程には「学長選考・監察会議は,学長候補者の所信等を聴取のうえ,学内意向聴取の結果を参考にして,学長となるべき者1名を選考する」(第16条の1)と定められています。もし規程に沿って適切に学内意向聴取の結果が参考にされたのであれば、1.2倍の得票数の差を覆すに足るどのような合理的な理由があって、このような選考結果に至ったのでしょうか。千葉大学の多くの教職員および学生が、今回の選考結果に納得し、学長となるべき者に信頼して大学の運営を委ねるためには、この点について詳細な説明がなされる必要があります。同規程にはまた「学長選考・監察会議は、学長となるべき者および選考理由を公示する」(第16条の2)「学長選考・監察会議は、学長となるべき者として選考された者について、当該選考の結果、当該者を選考した理由および選考の過程を公表する」(第18条)と定められていますが、現時点で公示・公表されている選考理由・選考過程の説明は、「国立大学法人千葉大学学長選考規程第3条を満たすと判断された」とするのみで、到底十分なものとは言えません。また学内向けに学内意向聴取結果を公示しながら、学外向けにそれを公表しないことは、恣意的な情報操作との嫌疑を免れず、千葉大学の社会的信用を失墜させる恐れがあります。学内外において情報の透明性が確保されることを切に求めます。

つきましては、下記の3項目について質問しますので、2月20日(火)を目処として、できるだけ速やかにご回答ください。なお、本質問書は本研究院ホームページ上にて公開することを申し添えます。



1、学長選考・監察会議は、選考の過程において、学内意向聴取の結果をどのように受け止め、どのように参考にしたのか。

2、学長選考・監察会議は、学内意向聴取の結果を覆すに足る、どのような合理的な理由をもって、学長となるべき者を決定したのか。

3、上記1および2に関し、学長選考・監察会議内において、どのような議論が交わされ、どのような過程を経て最終的な決定に至ったのか。

千葉大の学長選考に関して決定権があるのは、学長選考・監察会議であり、教員からの意見聴取は参考意見に過ぎません。ですから、今まで意向聴取で1位でなかった候補が学長に選ばれることがなく、今回初めて1位でない候補が選ばれたとしても、それ自体は手続き的に問題にはなりません。しかし、上記の質問書にもある通り、会議での選出の「合理的な説明」を求めるのは当然なことで、説明しないことは道義的に重大な問題でしょう。


千葉日報にはこの会議の位置づけについて記載しています。

規定では、学長選考は教職員による投票結果を参考に、学長選考・監察会議が投票を行い最終決定することになっている。同会議は、学内の教授らによる「学内委員」7人と、他大教授や民間企業取締役などの「学外委員」7人の計14人で構成。同会議は横手氏選出の理由について「『人格が高潔で学識が優れ、教育研究活動を効果的に運営することができる能力を有する』とした学長選考規定を満たす」などとする公示を学内に掲出。同会議の投票結果は明らかにしていない。

千葉大の学長選考・監察会議はどういうメンバーでしょうか?まず学外委員は以下の7名。

この中で気になるのは、銭谷眞美(ぜにやまさみ)氏と塩尻孝二郎氏です。銭谷氏は文科省キャリアで、事務次官を務めました。文科省から国立大へ理事などで天下りする事例は近年増えていますが、次官経験者のような大物が着任するのは限られた大学です。


 銭谷氏は2017年3月、文部科学省天下り問題に関して文書厳重注意相当とされました。2009年の事務次官退任時、東京国立博物館長も就任したことに関してなぜか10年近く後になって処分されています。銭谷氏の経歴についてはもう少し踏み込むと、2009年8月1日に東京国立博物館(東博)館長に就任していますが、2009年8月30日の衆院選で民主党が圧勝し、鳩山政権が誕生する直前です。「官庁キャリアの天下り禁止」を掲げる民主党政権誕生の前に、各官庁が慌てて幹部職員の天下りを図った構図です。銭谷氏もそのひとりと考えられますが、当時の文科省事務次官の坂田氏は8月3日の記者会見で、銭谷氏の人事について「文科省が間に入ったのではない」と述べ、あっせんを否定しました。しかし2017年の処分は、それを覆した訳です。しかも銭谷氏はその後12年以上も東博の館長を務めました。これに関しては、新潮Foresightがこんな記事を書いています。

実に13年ぶり館長交代、文科省“大物”次官OBが座り続けた東京国立博物館という“目立たなくても上等な椅子”


トーハク」の愛称で親しまれる東京国立博物館は、国宝89件を収蔵する日本有数の文化財施設だ。しかし組織としては独立行政法人「国立文化財機構」の下位に置かれ、政治的監視の目が届きにくい。その館長ポストは、実は歴代の文科省次官OBに誂え向きの天下り先だ。なかでも、先日ようやく任を離れた“大物”次官OBは、この地味な椅子に並々ならぬ熱意で座り続け……。

「在任期間が長すぎた」「居座りにしか見えなかった」と、文部科学省の幹部OBが次官経験者の名を挙げて批判した。その矛先が向けられたのは、6月15日付で東京国立博物館長を降りた銭谷眞美氏(73歳/1973年文部省入省)だ。同氏は文科省の事務次官を務めた後、13年近く館長に居座り続けた。

銭谷氏は2017年の処分にもかかわらず、さらに2022年6月23日より新国立劇場運営財団理事長に就任し現在に至ります。いわゆる「渡り」ですが、ここまで長く(2024年現在74歳)天下りを継続する元キャリアも珍しいです。2021年、瑞宝重光章受章を受章していますが、文科省ではよほどの大物なのでしょう。


 塩尻氏は元外務官で、外務省官房長、インドネシア駐箚特命全権大使等を経て、2011年から2014年まで欧州連合代表部大使を務めました。塩尻氏はインドネシア人の日本留学に関して一方ならぬ貢献があったようですが、インドネシアは千葉大が海外拠点を設ける国の一つでもあります。


 次に学内委員は以下の7名です。

一見して気づくのは、内部委員は和田健氏を除いて理系学部の教員(研究院長)で固められていることです。文学部、法経学部、教育学部は委員を出していません。


 和田氏が所属するのは国際教養学部ですが、前身は教養部です。この「国際」とつくのは、千葉大学が「グローバル人材育成ENGINEプラン」を策定し,2020年度以降入学のすべての学生について,卒業・修了までに1回の「留学」を必須としたからでしょう。現実には新型コロナの世界的な流行で始動できていませんが、このプランの実質的運営は主に教養学部が担うと見えます。開始時期からみて、このプラン策定は中山学長の前の徳久剛史(とくひさたけし)氏が学長だった時に始まったと考えます。調べると、その通りでした。日刊工業新聞2019年1月25日 から引用します。

千葉大学は24日、徳久剛史学長らが会見し、2020年度の入学生から海外留学を原則として必修にすると発表した。文系理系を問わず、すべての学部生と大学院生が対象。国際的な価値観や語学力などを身に着けて世界で活躍できる人材の育成を強化する。徳久学長は「できるだけ留学を推奨するということではなく、あえて必修化する。大学教育を変える旗印にしたい」と語った。

 留学プログラムや語学教育、資金面の支援体制などは今後詳細を決め、整備を進める。学部生には「国際日本学」という必修科目を設け、この中に留学を含める方針。10日間程度の短期留学も対象とする。留学先の授業料は大学側が拠出する。

 千葉大では16年度に設置した国際教養学部で、卒業までに最低1回の留学を必須にしている。この制度が好評なことから、留学の必修化を全学的に拡大する。

 国立の総合大学で全員留学を実施するのは初めてという。

このため、千葉大は授業料を2020年度から値上げしました。

2020年度から授業料10万7160円値上げになった 2020年度の入学者から授業料が値上りとなっています。 値上げ前は、535,800円でしたが、20%増の107,160円引き上げて、642,960円となる。

今や国立大の学費は一律ではありません。日刊工業新聞2020年3月19日から引用します。

動きが出たのは2018年秋、先陣を切ったのは東京工業大学だ。19年度入学生の値上げで東京芸術大が後を追った。20年度は千葉大、一橋大、東京医科歯科大が実施する。いずれも上限の2割増相当で、国際化への対応や教育の充実が理由だ


運営費交付金が苦しい中で国際化など資金の必要な活動が増えているのは、どの国立大でも共通だ。その中で先んじたのは学生の全員留学を掲げる千葉大と、各分野トップクラスの単科大学だ。「やや高い授業料に納得の学生を集めればよい」との判断があったのだろう。

しかし、新型コロナ流行が逆風となりました。東京新聞2023年1月6日の記事から引用します。

留学充実を理由に授業料を値上げ→コロナ禍で「オンライン留学」 千葉大 返金求める声も<ニュースあなた発>


「オンライン留学に納得がいかない」。新型コロナウイルス禍で海外留学がかなわなかった千葉大学(千葉市)の学生から、「ニュースあなた発」にそんな不満の声が寄せられた。他大学でもオンラインで代用していたが、千葉大は「全員留学」を掲げ、留学制度の充実を理由に授業料を値上げしたばかり。学生からは一部返金を求める声も上がっている。 (中谷秀樹)


◆外国人教授の英語による講義を動画視聴するだけ。これで全員留学と言えるのだろうか。

ネーティブな英語の環境に身を置く本当の留学をしたかったのに…」。オンライン留学を受講した文学部3年の女性(21)は肩を落とす。

 千葉大はグローバル人材を育成しようと、2020年4月から、原則全ての学部生と院生を対象に、海外留学(2週間〜2カ月程度)を必修化する「全員留学」を始める計画を示した。

 その全員留学に向けて、外国人教員の増員、現地授業料や渡航費の一部補助(各上限5万円)など制度充実のため、年間の授業料を約10万7000円値上げすることも発表。大学4年間で40万円超の負担増になる。当時の徳久剛史学長は会見で、「経費節減や自主財源の捻出での留学制度導入は困難」と説明していた。

 だが、新型コロナで海外への学生派遣は中止に。21年度から、海外の提携校とネットでつなぎ、学生がライブ中継で講義を受ける代替措置を設け、留学扱いとした。渡航制限の間は、1600人がオンラインで受講した。千葉大が派遣を解禁したのは昨年8月。学生にすれば、コロナの収束が見通せない中、就職活動や卒業論文を考えると、いつまでも留学を先延ばしにはできない事情もあった。


◆学生の本音「なんでこれで値上げになるの?」

 本紙記者が学生に尋ねると、13人中10人が不満や疑問を口にした。英国の提携校にオンライン留学した法政経学部2年の男性(20)は「国内の授業をオンラインで受けているのと変わらなかった。なんでこれで値上げになるの?」とこぼす。カナダに留学経験のある教育学部4年の男性(22)は「英語を使うしかない環境で生活して自分を磨けたし、今も連絡を取り合う留学仲間もできた。講義が終われば日本語の生活に戻るオンラインではできない経験だと思う」と振り返る。

 一部の学生有志は「オンライン留学では授業料の値上げの恩恵を受けていないとして、昨年12月から授業料の一部返金を求めて署名活動を始めた。

 千葉大教育企画課の担当者は、値上げについて「グローバル教育の充実、遠隔授業を用いた学習支援にも力を入れており、留学だけでなく学内の教育整備に寄与している。留学制度には自己財源も使っており、値上げ分との切り分けは難しい」と説明。返金には応じない構えで、「留学制度の取り組みを丁寧に説明したい」とコメントする。

運が悪かったとは思います。しかし、2024年度以降千葉大はこの留学制度を復活させるのかどうか、大学サイトからでははっきりしません。


 なお徳久氏は以下の経歴で、やはり医学部出身です。

千葉大学医学部卒業、千葉大学大学院の時にスタンフォード大学医学部、千葉大学助手の時にドイツのケルン大学附属遺伝学研究所に留学。 神戸大学医学部教授、千葉大学医学部教授を歴任。 千葉大学医学部長、千葉大学理事を経て2014年から2021年まで学長。