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STAP細胞騒動から10年 〜理研の最終報告書

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STAP細胞騒動から10年 〜理研の最終報告書
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STAP細胞騒動から10年、研究不正は倍増


STAP細胞で一番問題だったのは、血中のTリンパ球すなわちTCR遺伝子の組換えが起こっている細胞が弱酸性によって初期化され、万能化したのか?という点です。最初に自分が感じた疑問が、実はこの事件で最後まで重要な点でした。上の図で示されるように弱酸性で「初期化された」というTリンパ球には全能性はなく、STAP細胞作成実験の途中過程で意図的に混入されたES細胞が全能性を示したということです。ES細胞は全能性が立証されている継代細胞株ですから、全能性を示すのは当たり前です。


2014年12月26日、理研は「STAP細胞論文に関する調査結果について」と題して報告書を出しました。これを扱ったM3の2014年12月の配信記事です。

STAP細胞を巡る研究不正を巡って、理化学研究所の第三者から成る不正調査委員会は12月26日、残されている試料を解析したところ、全てES細胞由来であった点を明かし、「ES細胞の混入が示され、論文の主たる主張が否定された」との結果を示した(資料は、理研のホームページに掲載)。


 論文の筆頭著者で、旧理研発生・再生科学総合研究センターのユニットリーダーの小保方晴子氏による、Nature誌に掲載された論文の図表の2点の捏造も新たに認定。委員長を務めた桂勲氏(国立遺伝学研究所所長)は、「論文に掲載された細胞がなかったことは、科学的な証拠からほぼ確実」との見解を示し、細胞の存在が事実上否定される結果となった。ただ、混入についての故意については「故意に混入した疑いを拭えない」としながらも、実施者が特定できず、故意か過失かの認定をしなかった。小保方氏は、自身が混入させた事実を否定した。


 他にも、論文のオリジナルデータがほとんど見つからなかったり、画像の取り違えなどが確認された。報告書では、理研在籍時に小保方氏を指導していた山梨大学生命環境学部生命工学科の若山照彦氏と元CDB副センター長で故・笹井芳樹氏の責任について、「怪しいデータがあるのに追究する実験を怠った問題もある。両者の責任は特に大きい」と指摘している。

STAP細胞と誤認されたES細胞はどのようにして混入されたか?の部分が焦点になりますが、報告では「故意か過失かの認定をしなかった。」としました。実験で複数種類の細胞を培養していると、液滴のはねなどでコンタミネーションすなわち細胞混入が起こることは稀にあります。しかし、毎回毎回混入することは、「意図」しない限りあり得ません。今回の事件は「故意」と断定していいと思います。また、小保方氏に対して指導的・監督的立場にあった若山氏と笹井氏がその責務を十分果たしていなかった点を、批判しています。研究不正に対して、脇が甘かったと言えるでしょう。


今回判明した最も重要な点は、残されていた試料の遺伝子解析の結果だ。酸処理してできたSTAP細胞の塊については増殖しないため、残っていなかったが、不正調査委員会は、STAP細胞から樹立したSTAP幹細胞や、胎盤にも寄与するとされるFI幹細胞について調査した。その結果、残されていたSTAP幹細胞の試料について、若山氏や若山研究室の研究員などが作ったES細胞を比べたところ、挿入されていたGFP遺伝子の型やマウスの性別が一致するものがそれぞれ見つかり、報告書は「(STAP幹細胞などSTAP細胞の論文で示された現象は)全てES細胞の混入に由来する、あるいはそれで説明できることが科学的な証拠で明らかになった」としている。


 STAP幹細胞の樹立についても不自然な点が出てきた。若山氏らが、STAP細胞を胚に注入してもキメラマウスが得られない状況が続く中、残されたSTAP幹細胞は、2012年1月から2月の間に集中的に樹立したことになっていた。この時期にできるようになった理由について、若山氏は、胚に注入する際の手法を、「ばらばらにするのでなく、引きちぎったような固まりで入れるようになったらできるようになったと思っていた」と証言。桂氏は、「再度ばらばらで入れて(対象実験をしていれ)ば、ES細胞の混入に気付き、ここまで大きな騒動にならなかっただろう」と苦言を呈した。


ES細胞混入、全員否定


 論文においては、テラトーマの作成は小保方氏のみが実施し、STAP幹細胞やキメラの作成は、小保方氏と若山氏の作業だった。ただ、今回の報告書では、ES細胞の混入について、故意性の認定や、実行者を特定してはいない。桂氏が理由として、強調したのはインキュベーターの存在。STAP細胞は、酸性処理をした後に、インキュベーターで1週間程度保管していたが、若山研究室のインキュベーターがある部屋は、よく利用される部屋ではなく、人目に付きづらかったものの、多くの人が出入り可能だった。ES細胞の混入について、小保方氏は、「自身は混入させたことはない」と話したほか、関係者全員が混入を否定した。


 結論として、桂氏は、ES細胞混入の経緯は不明だったものの、「混入がどのようにしたかは謎のままだが、STAP論文の細胞はなかったのは科学的検証からほぼ確実といって構わない」として、STAP細胞の存在を事実上否定した。


 報告書では、若山氏と笹井氏の責任についても言及している。特にNature誌やScience誌がそれぞれ掲載を拒否した論文が、再投稿した結果、Nature誌に掲載された点について聞かれた桂氏は、生命科学の研究室では、内部で必ずオリジナルデータをチェックしている点を指摘した上で、「若山研究室のオリジナルデータのチェックがなかったとしか考えられない」と話し、一般的な実施事項を徹底しなかったことが、不正を見抜く機会を逃した可能性について指摘した。

だれかが意図的におこなわない限りES細胞の混入はあり得ないですが、それが誰の仕業かとうとうわからないまま終わりました。ただ若山氏は体細胞核初期化によるクローンマウスの作成の世界で初めて成功という著名な研究実績があり、そこまでリスクを冒してSTAP細胞を成功させねばならない動機はないと言えます。また、小保方氏が用いる細胞冷凍保管庫にあったES細胞は遺伝子ラベルから若山氏の下で作成されたもので、しかも若山氏はそれを「小保方氏に渡したことはない」と述べています。全能性細胞樹立に成功しないまま時が経つことに焦りを感じた小保方氏がついに不正に手を染めたというのが、もっとも疑われる経緯でしょう。


 昔、ブルーバックスで「詐欺の心理学」という本を読みました。この本の読後感ですが、「ひとは欲望をもつ時、詐欺の罠にかかる」でした。人間が何かを得たい、とかしたいと思った時、つい自分の都合に良い点だけに目が行ってしまう。その隙を詐欺師は見逃さないということです。その欲望は物欲だったり性欲だったり、もう何でもありです。笹井氏の場合、それは何だったのか?功名心だったと思います。幹細胞の研究界において日本では第一人者と自負していた笹井氏が、iPS細胞というダークホースで山中伸弥氏に抜かれてしまった。このままではポートアイランドに樹立した理研CDBを中心とした再生医療の旗頭を取られてしまう。


 ただ笹井氏と小保方氏の関係は欺された者と欺した者というより、もう少し複雑に感じます。STAP細胞の研究は小保方氏が理研CDBに持ち込んだもので、笹井氏は当初関係していませんでした。小保方氏と若山氏が共同で実験してSTAP細胞の樹立に「成功した」ということで、アメリカに出していたSTAP細胞の特許は仮出願でした(2012年4月)。1年後の2013年4月までに本出願をしなければなりませんでしたが、そのためには論文の受諾(アクセプト)と刊行が必須です。もしできなければすべてがご破算となり、出願はいちから出直しで膨大なお金と時間がまたかかります。しかし、特許仮出願と同時におこなったSTAP細胞の論文投稿は内容が疑わしいということでrejectに次ぐrejectで(結果からみれば当然ですが)、小保方氏と若山氏は焦っていたでしょう。小保方氏に関しては不正に手を染めた可能性が濃厚で、焦るも何も問題外ですが、若山氏は自分の実験が成功したはずなのにそれが認められないことに苛立ちと焦りがあったと思います。


そこに笹井氏が接近してきたわけです。2013年4月にNatureに再投稿した論文には、その1月から笹井氏がコミットしていました。この笹井氏のcommissionは論文を投稿されたNature編集部に、かなりの心理的影響を及ぼしたと思います。「小保方氏はともかく斯界で有名な笹井氏が共著者になる論文なら間違いないのでないか」という予断(バイアス)です。上記したように笹井氏はiPS細胞の出現で、自分の幹細胞研究界における地位が危うくなる状況に焦りを感じていました。この笹井氏のまったく別方面の焦りが、小保方グループの焦りと合体したと言えそうです。さらにNature誌編集部にとってもbig discoveryを掲載すればジャーナルの高評価をさらに上がるという功名心があったはずです。また小保方氏が当初からの共同研究者の若山氏から途中参加の笹井氏に相談をシフトしていった過程も、この不正発覚が遅れた原因でしょう。小保方氏は研究者同士の微妙な力関係を巧みに利用しました。