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「台湾動物記」 〜魅惑の島台湾に行ってみたい

タイリントキソウ ”銀山湖”


生物が好きなひとにとって、台湾は憧れの地でないでしょうか。古くは第二次世界大戦前から、日本の統治下にあった台湾には日本人の研究者が少なからず訪れています。一番多いのはチョウと中心とした昆虫、そして山地のランを中心とした植物などが好奇の的だったと思います。戦前の台湾探検については別に本も購入しているので、いずれ触れます。僕が小学生だった頃、NHKのドキュメンタリーで台湾のチョウが特集された番組を観た記憶があります。しかし、なんといっても「白黒テレビ」ですから!大きなチョウがひらひら飛んでいるのはわかるものの、形とかよくわからない。ましてや色については皆無です。森林の中を悠然と飛ぶチョウを観ながら、「いつか行ってみたいな、台湾」と思っていましたが、いつの間にか50年以上経ってしまいました。


 「台湾動物記」は「こんな本買うのは、相当物好きな台湾狂しかいないだろうな」と思って手にしました。思った通り相当マニアックな内容で、台湾の動物といっても哺乳類のみについて書かれた本でした。筆者が専門とするのは、滑空リス類つまりモモンガやムササビの仲間です。筆者がムササビにのめり込んだのは、北里大学獣医学科1年の時に同好会活動で高尾山のムササビを観察したことが大きかったようです。高尾山は「ムササビの聖地」として有名で、最近はテレビでもよく放映されています。しかしそれを専門として、台湾にまで行ってしまうのがすごい。これでも多分、台湾のムササビ類が日本のムササビと違って派手な色彩だったことが大きな理由でないでしょうか?カオジロムササビやオオアカムササビです。飼育も随分されたようですが、モモンガとかムササビって糞をぷっぷ、ぷっぷとまき散らすんですよね、漫画「動物のお医者さん」によると。うーむ動物園で観るのはいいけど、自宅で飼うのはなあ。


 ムササビ以外にもネズミなどの齧歯類、トガリネズミやモグラなどの食虫類が紹介されていますが、どれも地味な印象。しかし高地・低地の棲み分けはおもしろい話題です。イタチアナグマとはどういう動物か記述が全然ありませんが、狂犬病ウイルスを保持しているのか。日本は世界でも珍しく狂犬病ゼロ地帯ですが、海外に行けば狂犬病感染ほどおそろしいことはありません。発症すれば苦しみながらまず100%死ぬことになります。


 台湾のベンガルヤマネコの記載で、日本の南西諸島・西表島のイリオモテヤマネコはベンガルヤマネコの亜種に位置づけられたのを初めて知りました。これまた中学時代に図書館で読んだ本には「イリオモテヤマネコは原始的特徴が顕著でツシマヤマネコとはまったく違う西表島の固有種」と紹介されていたのを憶えていますが、今は東アジアに広く分布するベンガルヤマネコの一部になっていたのか。DNA塩基配列の研究成果の賜でしょうが、ちぇっ、つまらんなあ。


 タイワンザル以外にニホンザルも台湾にいるのですね。日本では外来種のタイワンザル(尾がある)とニホンザル(尾がない)の交雑が問題になっていますが、台湾で両種は棲み分けがあるのでしょうか?ツキノワグマは台湾にいることも初めて知りました。台湾と同じくらいの面積の九州では、ツキノワグマが随分前に絶滅しています。全体に思うのですが、台湾の豊かな動物相は急峻で深い山々と多雨性気候のおかげでないかと感じます。


 シカの仲間サンバーや中型のネコのウンピョウ(雲豹)の棲息は、台湾が東南アジアの一角を占めることを象徴していると思います。残念ながら台湾のウンピョウは絶滅してしまったようですが、サンバーなど餌となる大型動物が狩猟や開発で少なくなったことも関係しているのでないでしょうか。もちろん家畜を襲う害獣、あるいは美しい毛皮を求めての狩りの対象だったことも大きいとは思います。


 センザンコウは食虫類の仲間で、絶滅危惧種です。絶滅危惧になった最大の理由が漢方薬に使用されてきたせいですが、幸い今は保護されて絶滅の可能性は低くなったようです。


 最後は台湾の動物学教育事情を書いていますが、私はそもそも日本の動物学教育の現状をあまり知りませんのでよくわからない。しかし筆者が台湾から日本に戻ってきて(帯広畜産大学)、日本の大学教員がもはや研究に打ち込める状態でないことを嘆くのは身につまされました。


 珍しいマニアックな内容の本ですが、台湾の豊かな自然に興味がある方には一読を勧めます。私は哺乳類はさほどでもないですが、台湾の美しい鳥類や昆虫、そして植物に興味があります。昔の教え子も台湾にいるので、それも足がかりにして台湾必ず行ってみたいですね。


「台湾動物記」 押田龍夫著 東京大学出版会 2023.6.15