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鱈の子の炊いたん 〜「せやしだし巻京そだち」の追憶



鱈の子の炊いたん」です。「炭の燃えかす」ではありません!この冬の時期、真鱈の大きな卵巣が魚売り場によく出ます。精巣の方は、「菊子」とか「タチ」とか呼ばれて珍重されますが、うちは家内がまったく食べません。私は好きですが、毎回1人で食べるのも大変です。そこで今回は卵巣を買って来て調理しました。あまり見栄えはよくないですが、鮮度さえ良ければ味は抜群です。ご飯のおかずにも日本酒のあてにもぴったりです。


 ほくほくとした鱈の子を食べていると、昔読んだ「せやしだし巻京そだち」を思い出します。京都の呉服商の娘、小林明子さんが子供時代の思い出を語った随筆で、ハンジリョウという方がイラスト風のマンガで昭和時代の京都の街の情景を綴ってくれます。「アッコちゃん」(小林明子さん)は友だちとおままごとをする時、「家で何食べるの?」と訊かれて「鱈の子の炊いたん」と返事します。お友達にはぷぷーと吹かれて、「アッコちゃん、ばばくさあ」なんて笑われてしまいます。ばばくさあ!ですか。そうね、上の写真を見てもわかるようにビジュアル的にはまったく映えませんね。しかし、美味しいんだぞぉ!


 「せやしだし巻き卵」を読むと、「うーん、京都の町家暮らしも大変だなあ」と感じます。夏暑く冬寒い京都で、私など1年もこんな生活したら気苦労で倒れてしまいそう。どうしても食べ物系の話に興味持ってしまいますが、ファストフードと京都人の関係はおもしろかった。マクドナルドのハンバーガーに興味津々の子供達なのに親の監視でなかなか食べるチャンスがない。おじいさんがくれたお小遣いでようやく買って、店の片隅でこっそり食べる。まさに「背徳の味」だったことでしょう。ケンタッキーフライドチキンはイートインではなくテイクアウト、しかも冷え冷えになったのを晩ご飯のおかずとして出される。うちでもケンタッキーはご飯のおかずだったよ。


 筆頭のエピソードは永楽屋の「一口しいたけ」。永楽屋は干菓子を中心とした和菓子店ですが、おかずになりそうな京名物もいろいろ売っています。そのひとつがしいたけの含め煮の「一口しいたけ」ですが、アッコちゃんの家族はみんな好きで争奪戦になっています。あれしかし、結構なお値段がするので日常の食卓でほいほい食えるものではありません。やっぱり、アッコちゃんの家は裕福だったのでないでしょうか?


 本の表題と関係するだし巻き卵は、京都でもお店で買うことが多いようです。自分でもだし巻き卵は何度もつくってきましたが、出しが多いと火加減が難しいです。プロにつくってもらったものを、色々と試してみる方が気楽ですね。


 昔の京都は一般家庭でも(アッコちゃんの実家が一般家庭かどうかわかりませんが、少なくとも花街のお茶屋さんではない)、仕出し屋を呼んで料理をつくってもらうことがあったのですね。今はほとんど絶えたようですが、うらやましい習慣でした。その仕出し屋の見習いとしてくる「西やん」。本名はわかりませんが、来るとアッコちゃんを可愛がってくれます。最初は893?と思った西やんが思いも掛けず、良い兄貴ぶりを発揮してくれます。西やんには別れた母親と一緒についていった妹がいたのですね。やがて突然西やんが父の跡を継ぐため故郷に帰ることになり、そこで最後に西やんが作ってくれたのが、だし巻き卵。西やんと別れて40年近く経つ小林明子さんの回想には、ほのかな初恋の香りを感じるのは私の妄想でしょうか?


 息子が京都大学に通う間下宿した今出川沿いの西陣の街は、確かにアッコちゃんたちが暮らした昭和の京都が色濃く残っていました。なんか懐かしい。あの頃の京都、僕も生活してみたかったな。