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「植物はなぜ毒があるのか」 〜トリカブト毒殺事件思い出した



本書の筆頭に出てくるジャガイモ毒のソラニンは、結構有名でしょう。ジャガイモ買ってきて少し時間が経つと青くなってきます。芽が吹いてくると慌ててこそげとって使うが、結構めんどくさい。適当に削って調理し、食べてちょっとお腹痛くなるなんて経験、何度かしてます。南米アンデスでインカ帝国の住民によって栽培されていたジャガイモがヨーロッパではなかなか普及しないため、フランス・ルイ16世に仕えたパルマンティエが編み出した一計はよく知られています。王立農場でジャガイモを植え、「これはジャガイモといい、非常に美味で栄養に富むものである。王侯貴族が食べるものにつき、これを盗んで食べた者は厳罰に処す」と表札を出します。厳重な管理下でジャガイモ栽培をおこないますが、夜間はわざと警備を縮小させ、興味をもった大衆が盗むにまかせたのです。その結果、ジャガイモ栽培が普及したという話ですが、これ本当の話なのか?真偽は知りませんが、その普及前にジャガイモの毒性はヨーロッパでは広く知られていたようです。


 その毒素ソラニンですが、神経伝達物質アセチルコリンの分解酵素の阻害物質なのですね。小学校で栽培したジャガイモでわりとよく中毒が起こっていますが、「芽かき」と「土寄せ」を農家のようにきちんとしないことが原因だそうです。「芽かき」しないとソラニン含量が多い小さな未熟ジャガイモでできやすいこと、「土寄せ」しないとイモの緑化抑制が十分でないため起こるのか。近年の遺伝子工学の応用でソラニン産生に必要な遺伝子を壊してやると、発芽しないジャガイモになることを初めて知りました。つまり芽だしとソラニン産生は表裏一体の関係にあるということです。


 ヒョウタンとユウガオが同じ植物で、ユウガオは苦味物質で有毒物質でもあるククルビタシンを含まない品種とは初めて知りました。


 トリカブトの毒素アコニチンとふぐ毒テトロドトキシンは細胞膜のNaイオンチャネルに関係する毒物として有名です。どちらも神経伝導や筋収縮を異常にして死にいたらしめさせますが、アコニチンがNaイオンチャネルを開き続けさせるのに対してテトロドトキシンは閉じさせたままにする正反対の薬理作用です。開きっぱなしでも閉じっぱなしでも脱分極の波が正常に起こらないため、おかしくなります。もしこの2つの物質が同時に作用したらどうなるのか?実は双方の作用が打ち消し合うので、一見異常がないかに見えるのです。しかし体内での半減期でアコニチンの方が長いため、やがてアコニチンの毒作用が優勢となりアコニチン中毒で死に至ります。この時間差を利用した殺人事件が1986年の「トリカブト毒殺事件」だったことを知りました。つまりトリカブト単独だと即効性がありますが、ふぐ毒も同時摂取させると毒性発揮に時間がかかるのです。それによってトリカブト毒殺の嫌疑をかわそうとしたのが、この事件だったことを知りました。犯人の神谷力はこのきわめて巧妙な殺人トリックをおこなうため、トリカブトを何十本と栽培し、ふぐ毒のために1000匹以上のクサフグを漁師から購入しています。無論人を殺すのには、トリカブト1本ふぐ1匹でも十分すぎます。神谷はおそらく毒性発揮遅延時間を調べるために何らかの動物を用いて、何度も「実験」を繰り返していたと思います。いかに保険金詐取が目的とはいえ、ものすごい執念です。神谷の経歴を調べると、仙台市立仙台高校を卒業して東北大学を受験しますが失敗しています(父が東北大学教授だった)。その後は上京して高卒として幾つかの会社で転々と働きますが、特に薬物を扱う仕事はしていません。専門知識がないにもかかわらず独力でここまでくるのがすごい。その能力が善用されていたら、研究者としてかなり成功していたのでないかな。小学生の時、不倫した母親が眼前で服毒自殺したことが影響しているのでないかとも言われていますが、几帳面さと殺人衝動が合わさったなんとも奇妙な人格の人物です。


 本来白身魚のサケの身がなぜ赤いのか?アスタキサンチンという物質を多く含む甲殻類プランクトンを摂取するからですが、それがヘマトコッカスという植物プランクトンから来ていることを知りました。ヘマトコッカスのヘマトは「血の」という意味で、確かに写真を見ると真っ赤です。てっきり紅藻類なのかと思ったら緑藻類だそうで、クラミドモナスの仲間でした。なぜサケ類ではそのアスタキサンチンが生物濃縮されるのかわかりませんが、強力な抗酸化作用を持つアスタキサンチンは貴重です。アンチエイジングとして名高い美容と健康に良いこの物質がそういう流れだったことを初めて知りました。


 本書では色々な植物毒のおもしろいエピソードが他にもたくさん語られています。