同じ医学部といっても、私立の場合は財務規模や教員の質によって教育内容はピンキリです。しかし、国立大医学部なら授業料も同じだし(一部の値上げ大学を除く)、まあ大体同じような教育を受けられると何となく思いますよね。しかし、現実には文科省の過酷な締め付けで、格差が相当拡がっているようです。「山陰中央日報」というローカル新聞の記事ですが、ここに書かれる島根大の窮状は医学部だけでなく、多くの地方国立大に共通しています。引用します。
島根大、給与の引き上げできず 財政難で人事院勧告に対応困難 24年度4~11月分 国の経費減など影響
8/20(水) 11:00配信
島根大(松江市西川津町)が2024年度、人事院勧告による4月からの教職員給与引き上げに対応できず、12月からの改定にとどめたことが分かった。人件費に充てる国からの運営費交付金の基幹経費が減少しているのに加え、人件費と物価の高騰が影響した。4~11月の8カ月分は上昇分を支給しなかった。25年度も引き上げが勧告された場合の予算が確保できておらず、厳しい財政状況が表面化している。
24年度の人事院勧告は、民間企業との格差是正を理由に国家公務員の月給を行政職平均で2・76%引き上げる内容だった。
勧告に法的拘束力はないが、国家公務員は夏の勧告が年度当初にさかのぼって適用されるのが通例になっている。04年度に法人化された国立大も国家公務員の給与を考慮する必要があるとされている。
これまで同大も勧告に準拠してきたが、24年度は予算が確保できず、労使交渉の末、12月からの改定で合意。4~11月分の8カ月分は支給できなかった。
同大によると運営費交付金のうち、人件費など運営に充てることができる基幹経費の減少が背景にあるという。法人化した04年度の95億1千万円に対し、24年度は88億3千万円、25年度は87億2千万円だった。
さらに人件費は22年度の182億円に対し、24年度は10億円増の192億円になった。教育や研究、診療に関する経費も上昇。付属病院の経営も赤字となっている。
共同研究による外部資金の獲得などで財源の確保をはかっているが、改革の途上にあり、自助努力による増収で対応できる範囲を超えているとしている。
国立大学協会は24年6月、窮状を訴える声明を出した。大谷浩学長は「国立大学は地方を支える人材を輩出する重要な役割を担う。安定的な運営のためにも運営費交付金の基幹経費を一定にすべきだ」と訴えた。(小引久実)
従来地方の国立大でも医学部がある大学は附属病院の収入もあって財政は単科大よりましだったのですが、今は逆なようです。見出しですが、こんな記事もあります。
国立大病院の経営厳しく 島根大病院、24年度も赤字見通し 高度医療の機器更新に支障、CF活用も
山陰
2025/8/16 04:00
国立大学病院の経営が悪化し、高度医療を支える機器の更新に必要な費用の捻出が難しくなっている。島根大医学部付属病院(出雲市塩冶町)もコロナ禍が明けた2023年度に続いて24年度も大幅な赤字となる見通し
地方医療の中核となるはずの大学病院がすごい惨状になっています。なお現在島根大の学長を務める大谷浩氏は医学部解剖学講座の教授で、京大医学部出身です。こんなことになるなら、京都に居たままの方がましだったと思っているのでないでしょうか。
ヤフコメを見ます。
esu********
この記事では触れられていませんが現在国公立大学や私立大学の運営を圧迫しているのは光熱費の上昇と円安によるドル契約の研究関連経費(研究データベースや図書類など含め)です
一般のご家庭でも光熱費の上昇は実感されていると思いますが大学は非常に多くの光熱費を負担しています
ここ最近の上昇によりおそらくは一つの大学で数千万円は光熱費負担が増してます
さらに円安の影響も数百万円以上かと思います
それなのに運営交付金は上記の影響などを全く反映せずに逆に減らされてますので、学費の値上げをしない限りしわ寄せが今回のように出てきます
政府は少なくとも光熱費上昇や円安の影響を加味した上で運営交付金を算定すべきです
決定的なのは人件費の主要財源である文科省からの運営交付金が年々削られる一方なことです。文科省というより背後にいる財務省の差し金ですが。
ええ、その通り「本丸は財務省」です。研究に関わるあらゆることを「金がない」の一言でどんどん削ります。投資して儲けようとする発想はザイム真理教信者にはまったくないようで、驚くばかりです。
okt*****
島根大には何回か訪問したが、いろいろな施設が修理されず荒れ放題のところが目立ち、いかにも財政難という感じで驚いた。エネルギー削減のため、教職員は特別な許可を出さない限り、祝祭日は来校禁止というから更に驚いた。
ほとんどの学生は他の国立大学の状況を知らないから、悲惨さがわからないのだ。わかっていたら島根大には進学しないだろう。
大学の経営陣が外部資金に頼って事態を打開したいらしいが、優秀な教員は他大学に転出するから、現在働いている教員は、地元出身かそれなりの能力という実態がある。その後一畑百貨店も閉店したし、地元企業も弱いからあまり頼りにならない。
学長が国に何とかしてほしいと真に願うわけだ。しかし、独立法人化をいいことに、国は各大学で何とかしろという姿勢だ。このままでは、地域の教育は衰退の一途、それは地域の衰退を意味する。
ほんとか!そこまでして光熱費を節約すると、学問発展は阻害されます。
休日は大学に来てはいけないって、研究推進には致命的といっていいです。
波川玄蕃
島根大学をはじめ、多くの地方国立大学は似たような構造にあります。収入の半分以上を附属病院に頼り、国からの運営費交付金は全体の約4分の1、授業料は1割にも満ちません。その一方で、附属病院は慢性的に赤字を抱えています。理由は、高度医療のコストと診療報酬の乖離、教育と研究を兼ねるための人件費や設備投資、地域医療の「最後の砦」として不採算診療を担う役割、さらに診療報酬改定や包括払い制度による収入抑制にあります。加えて、老朽化や最新設備導入のコストも重なります。本来これを支えるべき国の仕組みですが、文科省には財政措置の権限がなく、実際には財務省が「PBゼロ目標」にこだわって必要な対応を認めていません。しかも独法化後20年間で交付金は2割削減され、授業料の値上げも事実上封じられてきました。こうした条件が重なれば、大学財政が厳しくなるのは当然の結果です。
附属病院が赤字になるのは、今高度化してますます高騰している医療費の現実があります。特に先進医療は患者からお金をとれず、病院負担となっていることが大きい。
qml********
過去に島根大の医学部の先生と共同研究していました。
当時の先生は大学単体ではとても研究ができる程の費用がまかなえず、「学会のランチョンセミナーで演者をする案件を受けたり、企業ウケする学会•論文発表をするなと、地道な活動で共同研究を呼び込むことで何とか学生たちに実験させてやれている」と話していました。
ELISAのキットや細胞培養用の培地ですら1つ10万を超える世界で、予算絞られて給料も上げられず研究も出来ないのは地獄ですね…。
今どうなっているか気になっていましたが、現実は厳しそうで悲しくなりました。
今全国的に病院経営が赤字になるところが増えています。三次救急や高度先端医療を受け持つ大学病院の経営が特に苦しくなっています。島根大のような地方国立大医学部が先端医療やそれを支えるリソースが完全に枯渇している現状はおそろしい。いっそのこと、中途半端なままより統廃合でどこかと合併した方がいい。実際、同じ意見のコメントが出ています。
koj********
島根大学は地元出身者の割合が低く、この場所にある意味をあまりなしていない。人口64万人の県で定員5300人の大学を維持しようとすれば当然そうなる。
個人的には国立大学に対する支出の拡大が必要だと思ってるが、島根県に国立大学を維持するのはもう困難だと思う。
koj********
鳥取県も人口が少なく関西からの入学が多いようですが、経営が成り立っているなら他人がどうこう言うことではないですね。
決算書を見てみればわかりますが、両校の経常収益は60億円の差で、これはそのまま附属病院収益の差です。鳥取県には救命救急センターが2つしかなく、鳥取の県立中央病院と米子の鳥取大学附属病院で棲み分けがなされているのに対し、島根県は東部に3つの救命救急センターがあり…まあいずれにせよ何らかの行政サービスを縮小しないと共倒れになるということです。
同じような立ち位置の島根大と鳥取大ですが、大学としては鳥取大の方が古く、医学部以外にも獣医学科もある点が違うかな。
今地方の国立大にできることは授業料の値上げです。東大など首都圏の有力大学を中心に一部の国立大は年53万円から63万円に授業料を引き上げました。しかし、本当に上げたいのは地方の国立大の方だと思います。学生募集の観点から手をこまねいていましたが、来春(2026年)まず山口大学が値上げに踏み切りそうです。そうなったら、もうどこもかしこも雪崩を打って値上げに舵を切るのでないでしょうか。しかし、10万円弱程度の値上げでは早晩行き詰まります。将来的には、最低でも年100万円程度は必要でしょう。
あなごくん
たしか小泉内閣だったと思うけど、独法化する際に国民は両手を挙げて賛成した記憶があるが。大学も稼がなきゃいけない時代だとかみんな納得していたように思う。それ以来ずっと日本の大学は世界から取り残されている。まあ、国民がそうしたかったんだからしゃーない。
そう今の国立大の困窮は独立法人にして以降始まっており、その法人化は民営推進を図った小泉純一郎と竹中平蔵の二人に大きな責任があります。
小泉純一郎は「古い制度をぶっ壊す」と勇ましかったけど、私の今の評価としては「結局財務省とかアメリカとか、うるさそうなヤカラの言いなりになっただけ」です。「聖域なき改革」で「錦の御旗」を得たザイム真理教信者どもは今日に至るまで、やりたい放題です。「万骨枯れて一将成る」じゃなくて、「万民枯れてザイム成る」じゃないか?「やったー!金貯まったぜ!」と鼻息荒くザイム真理教信者が勝ちどきを上げるころには、国民はもう生きてないんじゃね?
それは措くとして、問題なのは国立大医学部間の格差がこのままでは拡がる一方だろうということです。今でさえ地方国立大病院には研修医が残らないことが問題になっていますが、卒後の待遇が悪くなる一方ではもっと減るでしょう。その分を「地域枠」による入学者の縛り付けで補おうとするなんて、悪手も過ぎるというものでないか?今言えることは、地方の医学部地域枠での受験は絶対避けるべきということです。今から15年後には医師数は人口減で過剰になると予想されていますが、その前から飽和状態になっている可能性が高いです。かりに今から医学部に地域枠で入学すると、15年間は自由にならないまま地方縛りです。上記の地方の国立大や医学部・基幹病院の窮状は今後さらに悪化するでしょう。かりに僻地でなくても地方の疲弊する病院勤務の連続ではろくな研修ができないのでないか。ようやく年季が明けても、それまでのトレーニング不足を挽回できる場がない可能性が高い。折角医師になれても、格差が拡がり不本意な人生になる可能性が十分あります。お金がないけどとにかく医者にはなりたいというなら止められないけど、その後の人生はもって瞑すべしです。