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Omble chevalier 〜スイスから来た高貴な魚


スイスの氷河が消滅危機 〜「エヴァ」の世界の現実化か
ヒメジ 〜美味なる魚


スイスアルプスの氷河激減のニュースで、ついそちらに力が入ったブログを書いてしまいました。しかし、私がそのニュースを聞いてまず思ったのは「omble chevalierは今どうなっているのかな?」でした。


今と違ってインターネットがなかった頃、海外に住む日本人にとって大事な情報源は地域で発行される日本語ミニコミ誌だったと思います。もちろん日本人滞在者が多い地域でないと発行されませんが、パリでは今も昔も「OVNI」がもっとも重要な日本語ミニコミ誌です。あれ当時は確か月刊だったと思いますが、発行日になるとオペラ座近くにあるジュンク堂書店まで求めに行きました。OVNIの最大の特徴は食に関する情報です。パリを中心にレストランの紹介や食材の紹介にかなりのページを割いています。私はレストランに行く暇はほとんどありませんでしたが、食材情報はいつもマークしておき、マルシェで見掛けたら購入して試していました。


 ある年の7月です。この食材情報コーナーに「omble chevalier」(オムブル・シュヴァリエ)という魚が紹介されていました。フランスでは主にスイスからの輸入品で、非常に美味な魚として出ていました。オムブルは「イワナ」の意味で、シュヴァリエは「騎士」です。すなわち「騎士のイワナ」ということで、如何にも高貴な名前です。「美味だが珍しい魚で、市場にはあまり出回らない。見掛けたら是非お試しを」と書かれていました。ふーん、どんな魚なのかな?食べてみたいと思いましたが、確かにいくら魚屋を回っても見ることはありませんでした。フランスでサケ科の魚といえば、まずは養殖のアトランティックサーモンです。輪切りの切り身で売っていますが、日本のサケと違って脂っぽい。しかも餌がよくないせいか、独特な生臭さがあり、日本で食べる天然サケとはまったく別物でした。養殖のニジマスtruiteも結構ありましたが、まあ普通のマス。そういう意味で、天然物だというomble chevalierには興味津々でした。


 確かその7月の終わりだったと思いますが、偶然マルシェの魚屋にこのomble chevalierが出ているのを見つけました。側線沿いのパールマークがきれいです。たった1匹しか置いてなかったですが、値段は確か1600円くらいでものすごく高いというほどでもない。オマールなど4000円前後ですから、ずっとお安いです。早速購入し、自宅でムニエルにしていただきました。とんでもなく、美味しかったです。時々食べていたtruiteと比べて上品な白身魚ですが、何とも言えない独特なうま味がありました。自分の人生で食べた美味な魚ベストファイブに入りますし、淡水魚ではナンバーワンです。また食べたいと思いその後も随分探しましたが、パリにいた4年弱でomble chevalierを見たのはとうとうこの1回限りでした。


 omble chevalierの正式な和名は「ホッキョクイワナ」のようです。名前の通り、ホッキョクイワナが分布するのは北極海周辺地域で、スイスはその南限といっていいでしょう。


スイスの分布は飛び地ですが、これは氷河期にヨーロッパ大陸全土に拡がっていた氷河の名残でしょう。しかし、ここまでスイスアルプス地帯が暑くなって氷河がなくなろうとする今、omble chevalierの運命は風前の灯火でないでしょうか。