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第118回医師国家試験 〜国試合格率と卒業・進級判定

第118回医師国家試験 〜東大・京大がふるわない成績


この前書いた記事で、読まれた方から「私立医科大の合格率はいいのは、あらかじめ学内模擬試験などで振るわない学生に受験を制限しているという話がある。」というご指摘がありました。合格率を少しでもよく見せるために、受からなそうな学生は予め受けさせないようにしているのでないか?という疑惑ですね。ちょっと私が忙しかったので、そういうことはあり得ると思いつつ、そのままにしていました。しかし、気になるご指摘だったので、今年の118回医師国試の大学別合否について、資料を改めて検討・解析してみました。


 注目したのは国試の出願者数と実際の受験者数の相違です。医師国試など医療系の国家試験の出願は例年11月くらいにおこなわれます。実際の国試実施は2月ですから、ほぼ3ヶ月近いタイムラグがあります。もちろん国試当日に身体の具合が悪くなる、あるいは直前の不慮の事故で受験できなくなるといったアクシデントもあるでしょう。国試は天候災害などの特例を除いて追試はしないので、受けられなかったら翌年度まで待つことになります。しかし、もう一つ重要な事案があり、それは卒業資格です。出願時の11月はまだ卒業に必要な単位取得が確定してないので、新卒受験生はまず間違いなく「卒業見込み」の資格で出願します。しかし、国試当日までに卒業できないことが確定したら、仮に受験して合格したとしても、それは無効になります。そこで問題になってくるのが、多くの医学部で卒業単位の一つとして課している「卒業試験」(卒試)です。卒試ではそれまで学んだ科目で主に臨床系を総ざらえで試験をおこない、医師資格を受けるのに十分な学力があるかどうか判定します。卒試のやり方は大学によってまったく異なりますが、6年生後期におこないます。本試験で落ちた場合、再試験は12月から1月におこなうところが多いです。国試出願の時は「卒業見込み」であっても、卒試の再試を落ちたら「見込み」は取り消され、国試を受けられなくなるわけです。もし出願者と実際の受験者の数に大きな乖離があれば、それはこの卒試で引っかかった学生がいる可能性が高いです

 まず受験できなかった学生が多かった大学を見てみます。
川崎医大28人とずば抜けて多いです。続けて
北里大学(16人)
東海大学(15人)
金沢医科大学 (12人)
獨協医科大学(12人)
産業医科大学(11人)
防衛医科大学校(10人)
久留米大学(10人)
近畿大学(9人)
熊本大学(8人)
杏林大学(6人)
藷田医科大学(6人)
自治医科大学(6人)
東京医科大学(5人)
福岡大学 (5人)
と主に私立医大が並びます。


次に受験者数の出願者数に対しての割合を見てみます。医学部の定員は大概100人前後で同じようなものですが、非受験者の数は多くないので出願数との比率もみる必要があります

先ほどのと同じく川崎医大の受験率がワーストでした。続けて、
防衛医科大学校
北里大学
東海大学
産業医科大学
金沢医科大学
獨協医科大学
久留米大学
近畿大学
熊本大学
杏林大学
藷田医科大学
自治医科大学
東京医科大学
福岡大学
と並びます。受験率が低いのはやはり私立医大が多いですが、国立大の熊本大や準国立の防衛医大も顔を出してきます。特に防衛医大は学生数が少ないので不受験者の数自体はすごく多いわけでないですが、率としてはかなり目立ちます。官費学生なので、これはいかがなものか。熊本大は在学中の留年率も国立大としてはかなり高いと聞いたことがあります。多くの私立医大は上の不受験者数リストと同じ顔ぶれです。川崎医大は創立当初の1期生は100%の合格率だったように記憶しますが、卒業にあたって相当「選別」してたのかなと今は感じます。しかしながら、川崎医大の合格率は2020年を除いてここ20年近くずっと低い状態が継続しており、いくら卒試で選別したとしても合格率の飛躍的な上昇は至難とみえます。


 気になったのは合格率の順位変動です。合格率は受験した実数に対してみているので、出願者数は関係ありません。

東海大は前年度の117回から順位が大幅に上昇しています。「よびめも」という方のブログに、各大学の合格率推移が出ています。引用させていただきますが、東海大を見てみると、以下の推移でした。

この2年ほど合格率が全国最下位に低迷しておりました。117回に関しては出願者数が過去最多となっておりますが、留年生が累積していたのか入学定員増のせいかよくわかりません。不受験者数は12人とかなり多かったです。今年は卒試でさらに大なたをふるった可能性があります。118回の東海大の合格率を詳しくみてみます。

新卒は100%の合格率でしたが、既卒も71.4%と悪くありません。既卒生の合格率はおおよそ30%くらいなのが普通ですから、東海大の既卒生は相当頑張ったといえます。大学として国試合格率アップのために相当手を打っているのでないでしょうか?


 東海大とは逆に118回合格率が大幅に低下したのは、久留米大です。「よびめも」という方のブログで久留米大を見てみると、以下の推移でした。

久留米大は例年合格率がよくありません。117回でたまたま上昇しましたが、この年の不受験者は20人となっており、かなり多かったです。それに比して118回の不受験者は10人と例年並みでした。


118回の久留米の合格率を詳しくみてみます。

新卒の90.7%もさることながら、既卒生は33.3%でほぼ既卒合格率の平均とはいえ全体によくないといえます。


 2校だけみましたが、卒試での絞り込みが合格率にかなり影響している印象です。しかし、仮にその年留年して国試を受けなかったとしても、退学したわけではありません。6年生になってから医学部を退学する学生は非常に少ないです。ですからいずれそういう学生も何とか卒試に合格して卒業し、国試を受験します。卒試による小手先の合格率操作は長い目でみると、結局役に立ちません。


 在学中の留年率も気になったので、検索しました。「太宰府アカデミー」のサイトに2022年の一覧があったので、留年率が高い方を引用させていただきます。

私立医大に関しては、上の卒試選抜濃厚な大学とかなり一致しています。こちらでも川崎医大は留年率の高さが一番でした。川崎医大は学費も私立では一番高い方ですが、親子とも入ってからがなかなか大変そうです。国立大ではやはり熊本大の留年率がかなり高いですが、なぜか西日本の地方国立大の留年率が目立って高い傾向です。これ、何か理由があるのかな?国試合格率では熊本大を除いて低いわけではないので、不思議です。進級判定が異常に厳しい?


 全体としてまずは入学者の選抜、そして入学後の教育の充実が医師の効率良い養成に大事なのでないかと思いました。当たり前すぎる結論ですが。