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医学部の口頭試問試験 〜厳しい!

他の方のブログですが、ハンガリーの医科大留学事情のyoutube動画紹介とそれへのコメントをされていました。その中で、

日本と違って、試験の形式が、口頭試問形式なのだそうです。

つまり、教授の前で口頭で答える形式の試験。


1~100までのトピックがあり、全て網羅しておかないと、何も話せないことになるのだとか。この試験がかなり厳しいそうで、留年に関わる主要科目の試験はほとんど口頭試問形式なのだそうです。


留年で終わるならまだしも、法律として試験は6回までしか受けられないそうで、

6回チャレンジしてダメだった場合は、強制退学です。

これを読んで、私は昔を思い出しました。他大の医学部は存じませんが、我が母校の医学部は国内ですが、口頭試問は重視されていましたよ。臨床方面は概してものすごく厳しい課目はなかったですが(例外あり!)、基礎医学はなかなか大変でした。中でも生理学。医学部の基礎医学履修で解剖学が大変という話はよく聞きますが、はっきり申せば憶えればいいわけですよね?とにかく網羅的に憶えて(我々の頃はラテン語名称も含めて)しまえば、何とかなる。母校の場合、格別にきついのが生理学でした。生理学でも憶えることが多いですが、「体系的な整理」がとても大切です。動的平衡といいますか、生物(人体)の中でどう機能的に制御されているかを整理するのは、初心者には骨が折れる作業です。また口頭試問で一人に対して聞かれることは一つですが、試験官一人につき憶えるべき項目は30項目以上ありました(生理学の課目は1と2に分かれており、それぞれに3人の試験官がいた)。


 しかし、筆記試験なら記述試験であったとしても、そう大変ではないです。間違えたら消しゴムで消して修正すればいいし、試験時間内なら何度でも推敲できます。ですから口頭試問の前に実施される筆記試験は別にどうということはありません。ところが口頭試問の場合、一度発した言葉は修正できない。いや修正できなくはないのですが、そこで建て直して論理を再構築するのは至難なのです。間違えたりすると試験官の先生から鋭いツッコミが入るので、精神的な緊張は極限に達します。まあ大概そこで撃墜されます。私も本試験では撃墜されました。今でも憶えていますが、私の口頭試問のお題は「腎のクリアランスを論ぜよ」でした。腎臓のクリアランスは血しょうのろ過ですから、


C…ある物質のクリアランス(cc/min)とすると
C=UV/P 
となります。ただし
P…その物質の血中濃度(mg/dl)
U…その物質の尿中濃度(mg/dl)
V……1分間の尿量(cc/min)


実に簡単。トコロガ!私は勉強し過ぎたのですね。参考にした大学指定以外の生理学教科書にもっと複雑な方程式が書いてありました。「腎臓は、通過する全血漿から、ある物質を完全に除去しているわけではない」ので、上記の式は近似式です。糸球体ろ過量などの変数を入れた微分方程式がより正確です。それはよいのですが、きちんと理解してないでそれを述べたので突っ込みどころ満載となり、撃墜されました。他の課目はともかく、生理学不合格に非常にショックを受けたのは今でもよく憶えています。再試験では甲状腺ホルモンだったので難なくクリアしましたが、と思ったがそうでもなかったな。一通り質疑に答えましたが、最後に「基礎代謝はどれくらい?」と追い打ちが!まあ医者になればそれは当たり前で1,500 kcal弱となりますが、あの時はかろうじて答えました。いやはや口頭試問は大変だとつくづく実感しました。


 今から思うと、当時は創立時の加藤元一先生以来の伝統が脈々と息づいていたころでした。ビギナーには非常に厳しい試験でしたが、おかげであとは随分と専門課程の教育になれていきました。今となると、試験する先生の方も負担が相当あったと思われ、有り難く思います。しかし、ここで撃沈されてあえなく退学していく学生も複数いました。今でも憶えているのは、高校で2年先輩だったひとです。その先輩は高校在学中の成績が抜群で、高校始まって以来の秀才でないかという評判でした。大学に進んでからも高校に来たのを見たことがありましたが、「あれがかの有名な秀才の先輩か」と思いました。しかし、この生理学は落ち続けていたのですね。留年して、私と同じ年にこの試験を受けていたのです。あれ?なんであの秀才の先輩はここにいるんだろう?といぶかしく思いました。しかし、その年も合格せずさらに下の学年になってしまいました。そしてその年が学則上最後の年でそれ以上留年できなかったのですが、またしても生理学の口頭試問に落ちてしまいました。そして遂に強制退学、すなわち放校になってしまいました。最後の成績は合格点ぎりぎりだったそうですが、不合格は不合格ということで厳正に処理されたのです。今どうされていらっしゃるのか知りませんが、あれで良かったのかな?でも、考えてみると我々の学年でも6年間留年せずにストレートに卒業できたのは8割強で、途中で放校になった者は4人いましたね。


 ハンガリーの医科大だけでなく、国内の大学でも厳しいところは厳しいです。今上記のサイトで引用されているハンガリーの医科大学紹介のyoutube動画も見たら、「放校になった学生は他の大学に再入学することもある」と言ってました。思い出しました。うちの大学も留年で退学になってしまったひとが、京都大学医学部を再受験して(もちろん医学科です)合格し、京大に進んで卒業していきました。ただ、これは生理学口頭試問とは関係なかったです。