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0から学ぶ「日本史」講義―古代篇 気楽に読める歴史随筆

諦めることで道は拓ける 〜出口治明さん
「リーダーの育成などできません」 〜再び出口治明さん


著者の出口治明さんは週刊文春にずっと連載を持っていましたが、一昨年急に休載になりました。それほど熱心に連載を読んでいたわけでなかったのであまり気にしてなかったのですが、脳内出血で倒れていたのですね。最近復活されてきて文春にも顔出し記事が出たので、ようやく知った次第です。さてこの本はその文春での連載を基にして発刊されたものですが、私はそういう由来とは知らずに買いました。


 この本を読んで、私は自分の日本史に関する知識が中学以来ずっと停滞していたことに気づきました。お恥ずかしいことに聖徳太子が「厩戸皇子」となり、彼が書いたとかいう十七条の憲法を含めて従来業績とされていたものが、後世の創作物語と考えられていることを知りませんでした。また大化の改新が「乙巳の変」となり、その歴史上の位置づけが昔とはまったく違っていることも知りませんでした。
 もうね、それもこれも高校時代に日本史を教えてくれた教員のせいです。東大文学部を出たこの教師は当時の社会科教師としては典型的な左派で、日本史も彼の歴史観に沿った教育でした。江戸時代の田畑(「でんぱた」と読む)開発と農民と武士の闘争の歴史で、要するに階級闘争が封建制の江戸時代から果敢におこなわれていたというような話でした。それでまる1年間(!)の日本史授業。しかし最後の期末テストにはなぜか「現在の日本国憲法をどう思うか?」というような出題がなされました。私は「第二次世界大戦前のような軍国主義が継続していたら、たとえ敗戦になったとしても今のような平和・民主的な憲法は成立しなかっただろう。今の憲法成立には様々な議論があるが、せっかくできた憲法だからそれを活用することを考えていくのがよい」というような事を書きました。結果はどうなったかというと赤点すれすれのごく低い評価でした。要領良い奴なら、この教師が求めそうな「人民は階級闘争に勝利し、新しい憲法を制定すべし」とでも書いたのかな。こういう思想調査みたいな試験をおこなうのは、教師として完全にルール違反です。とにかく、この教師のおかげで日本史が「嫌悪すべきもの」となり、その後ほとんど寄りつきませんでした。


 出口さんは古代の日本史について、当時の東アジアの国際関係に触れながらわかりやすく解説してくれます。東洋史なら世界史で学習済みなので、すらすら読めます。遣隋使や遣唐使が当時の中国や朝鮮との緊張をはらんだ関係の産物だったことをよくわかりました。また後漢やその後の南北朝の頃など日本は本当に未開の国で、文明的な格差が非常に大きかったことも改めて実感しました。ところどころに当時の人物が思ったり言ったりしそうなことを出口さんが根拠なく書いているので、この本は歴史書とは言えません。しかしそういう空想が日本史おもしろい!と思わせてくれます。「出口節」といっていいような軽妙な語り口も随所に表れています。「〜やで」と関西弁のソフトな語り口がいいです。
 ただずっと日本史から遠ざかっていたために、藤原一族の系譜とかに疎く、たくさん出てくる人物の名前で頭の中が錯綜します。巻末に主な一族の系譜や年表が出ていますが、途中に織り込んでくれたらもっと読みやすかったのにと思いました。出口さんによれば続篇の「中世史」はさらにおもしろくなるそうです。期待して続篇も読みたいです。


0から学ぶ「日本史」講義―古代篇 出口治明 文春文庫 2022