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東大「国際卓越研究大学」第2回公募に応募 〜危うい

国際卓越研究大学(1) 〜どういう制度設計なのか
国際卓越研究大学(2) 〜なぜ東北大学なのか
国際卓越研究大学(3) 〜心許ないファンドの運用と政府の思惑
国際卓越研究大学(4) 〜国立大学法人法改正という陥穽


国立大学法人法改正が成立(1) 〜「日本が死んでいく」の意味
国立大学法人法改正が成立(2) 〜「法案可決までの異常なスピード感」
国立大学法人法改正が成立(3) 〜集英社オンライン記事へのヤフコメ
国立大学法人法改正が成立(4) 〜集英社オンライン記事2から
国立大学法人法改正が成立(5) 〜“稼げる大学法案”で学問の自由が失われる
国立大学法人法改正が成立(6) 〜小林鷹之氏の考え
国立大学法人法改正が成立(7) 〜戦前の国防教育を思い出す


国際卓越研究大学に関わる問題は日本の科学研究全体を完全に沈没させかねない重要な大学制度の変更なので、非常に注視しかつ憂えています。今回はスイッチの記事です。

 東京大学は2024年度中に予定される国際卓越研究大学の第2回公募に応募する方針を示した。同大のタスクフォースが、初回の審査過程や、法改正で設置することになる「運営方針会議」のガバナンスなどについて検討。応募が適切だとする報告書をまとめ、学内会議で決定した。

えっ、また出すの?

報告書には課題などをまとめた。議論が不足したため総花的になり、新部局「カレッジ・オブ・デザイン」の構想も、国際化と学士課程を巻き込む改革でありながら、目玉として中途半端だったと振り返った。ガバナンス体制の枠組みについても、政府の議論を踏まえて報告書に記した。

ああ、カレッジ・オブ・デザインがいきなり発表されたのでどうしたのか?と思っていたが、そういう絡みだったのか。カレッジ・オブ・デザインについて東大のサイトに大層な御託が述べられているので、興味がある方はそちらにどうぞ。日経の記事が簡潔に要点を整理しているので、引用します。

新学部に相当する新たな課程の名称は「カレッジ・オブ・デザイン」。5年間で修士まで修了できる欧米の有力大を参考に、学部4年間と大学院修士1年間を合わせた5年制とする。


入学定員は理科3類(医学部)と同規模の100人程度を想定し、半数は留学生とする方針。既存の学部の学生も新課程の授業を受けられるようにする。大学の独自基金の運用益を生かし、国内外の企業や大学から研究者を集めて講義を充実させる考えだ。


カリキュラムは文理の枠にとらわれず自身の興味に応じて設計できるようにする。視野を広げるため1年間は企業でのインターンシップや留学などを課す。国の大学院設置基準は修士課程について原則2年とする一方、優秀な場合は1年での修了も認める。


幅広い学生の受け入れに向け従来とは異なる入試の方法を探る。24年度中に入試概要を決め、公表する予定だ。国際的に優秀な教員を確保するため世界中から公募する。

新年度が秋学期から始まる海外の学生を集めて国際性を高めるのが第一の目的ということはすぐわかりますが、一体どういう人材を養成するつもりなのかさっぱりわからない。「文理融合」を謳いますが、旧制帝国大学以来の伝統である「教養」に国際色を彩りとして添える程度しか想像できません。これだったら、今駒場にある教養学部を拡充するのでもよいのでないでしょうか?しかし、色々な可能性がありそうだけど、もしどのスキルもうまく伸びなかった時どうするのかわからない。資格や専門性をとるようにはまったくデザインされてない学部ですからね。


 しかし、こういう小手先の変化まで入れて、改めて「国際卓越研究大学」にチャレンジするのか?そこまでして拘るのは、東大が日本で一番の大学だから?


ヤフコメの反応は非常に鈍いです。

ran********3/15(金) 10:47


東大は一刀流が入学しにくいから、そもそも卓越研究とは相性が悪い。

京大や東北大に任せて良いのでは?

バランス感覚の取れた広い視野からの研究も大切なので、その方向で強みを活かして欲しい。

何仰りたいのか、よくわからない。一刀流だと国際卓越研究大学になりやすいんですか?東北大みたいに理工系に集中した大学がまず選ばれたのは、そういう意味だったの?違うと思うが。


APR3/15(金) 12:43


文科省の政策は大学教育、研究を悪化させることばかりしている。

これもそう。ガバナンス強化という口実で、OB官僚の天下り先を増やそうというのが最大の狙いです。

そう、これはまさに同感です。しかし文科省の天下りなら、今だって東大に限らず色々な大学に随分入っています。2023年11月に唐突に施行された国立大学法人法の改正によって、「政府が指定した」大学には「合議体」という運営会議を設置し、かつそこに必ず外部有識者を入れることになりました。この合議体は学長よりさらに上の組織で、事実上大学の全ての実権を握ります。岸田自民党政権は、政府や官僚の息が掛かった者が大規模な大学の運営に直接関与できる仕組みを無理くりにつくりました。そちらの方が遙かに重大な問題です。

real*****3/15(金) 10:22


こういう公募プログラムは、国立大学が独立法人化されながら、国はどうしても東大を自分の支配下に置きたいということでしょうか。


東大も応募してお金をもらえないとやっていけないのでしょう。

東大などはすでに上記の法改正で、卓越であってもなくても運営会議に外部有識者を入れることを決められてしまいました。だったら、もうどうでもいい。10兆円ファンドさえうまくいけばお金がもっともらえるということかな?


 2022/1/31(月)と旧聞になりますが、医療ジャーナリストの榎木英介がこの10兆円ファンドの問題を論じていたのを見つけたので、引用します。

大学の収入源の多様化」は不可欠か?


 大学現場が疲弊する中、それでも「選択と集中」と「毒まんじゅう」が続くのはなぜだろうか。


 これを知るには政策を策定する側の声が参考になる。


 今回の大学ファンドの提唱者と目される甘利明議員はTwitterで以下のように述べた。

そうか、甘利明のそういう提言があったのか。

上述の甘利議員のツイートでは、10兆円ファンドは海外への人材流出対策、特に最近話題の中国への人材流出対策を意識したものであることが示唆されている。

 しかし「選択と集中」方針の路線でそれは防げるのだろうか。答えは否と言わざるを得ない。主に二つの理由からだ。

 まず「ほとんどの大学が支援対象となっていない」という単純な事実だ。

 そして、中国に渡る日本人研究者は、中国のほうが日本より給与が良いからといったような理由で異動している訳ではないということだ。若手からベテランの研究者に至るまで、日本に安定した職がないという切実な実態が背景にある。


〜中略


大学ファンドの提唱者である甘利明議員も、中国の日本人研究者に関して「高額な年棒で招聘」などとブログに記しており、中国へと日本人研究者が渡るのは給与が高額だからと考えているようだ。


こういった「中国へ研究者が渡るのは高待遇だから」という先入観、実態と異なる認識は、的外れな研究者バッシングにつながるだけではなく、「中国からの高待遇引き抜きに対応するためにはさらなる選択と集中を」といった的外れな対策にもつながる。百害あって一利なしだ。


とにかく、国立大学法人法の改正に強引に踏み切った背景として、自民党議員に「日本の研究が中国に乗っ取られる」という危機感があったことはわかりました。おそらくそんなことだろうと思っていたが、じゃあ東大などを監視して研究者が夜逃げしたりスパイ行為したりしないように見張っていれば、日本の研究力はどんどん増すのですか?まったく逆だと思う。たとえ中国に行かなくたって、優秀な研究者は幻滅して他の国に行こうとしますよ。なぜかといえば、日本の大学研究者は何年経っても有限の任期制にしばられているから。特に若い人は人生設計が全然立てられないまま30代も半ばを過ぎ、結婚だって望みにくい。女性だったらその年になれば結婚できたって子供を持つこと半ば諦めますから、優秀な人材ほど少子化に拍車がかかる構図。そもそも監視して縛り付けておけば、研究者は思った方向に馬車馬のように働くと思うのが、根本的な間違い。研究の原動力は、監視とか統制とかから一番遠いところにあります。今もっともその方向の引き締めが強い中国の科学はどんなに隆盛しているように見えても、長期的視野に立てばいずれ変質・衰退していくはずです。


 しかし、東大は今後どうするのでしょうか?今国費がもっとも多く投じられる大学だから国際卓越研究大学は必然かもしれないが、あまりに唯々諾々とした行動です。国際的な競争力はかえってますます低下するのでないかと危惧します。